エピソード
登場人物紹介
◆サナディー:
言葉を理解するサナダ虫
◆カナコ:宿主
◆ケイコ:カナコの親友
著者プロフィール
ユミって人が好きなこといって帰った夜、カナコちゃんは早々と寝てしまった。
大丈夫かな、カナコちゃん。またおかしくなっちゃわないか、心配だよ。
今のカナコちゃんは、ひとりぼっちだ。毎日ひとりで黙って考え込んでばかり。ケイコちゃんにもあんなこといっちゃって、もう誰も相談できる人がいない。
大丈夫、ぼくがついてるっていってあげたいけど、ぼくには何もできないんだ。悔しいよ。ほんとうは何でも聞いてあげたいし、何でもしてあげたいのに。でもカナコちゃんはぼくの存在さえ知らない。お腹の中からそっと見守ることしかできないんだ。
神様、どうかカナコちゃんを元に戻してください。自分の意見なんて、いえなくなっていいです。食欲だって、なくたっていいです。だから、元のカナコちゃんに戻してあげてください。そして、ひとりぼっちにさせないでください。できれば、ケイコちゃんとも仲直りさせてあげてください。このままずっとひとりだなんて、カナコちゃんが可哀相すぎます。お願いします。この願いを叶えてくれるなら、ぼくはどうなったってかまいません。だから、どうかお願いします。お願いします。
翌日、カナコちゃんは昼頃起きると、電話をかけはじめた。どうしよう、またコミットメントをとるつもりなのかな。
「あ、お母さん? 私、カナコ」
良かったぁ。お母さんにかけたのか。でも何をいうんだろう。まさか、お母さんを説明会に誘うんじゃ……。
「あのね、これまでゴメンね」
ん? どうしたんだろう。突然謝ったりして。
「私、これまで、お母さんの気持ちなんて考えてなかったかもしれへん。育ててもらったことかって、感謝してなかった。だけど、気付いたの。お母さんがどれだけ私を育てるために頑張ってくれたか。どんだけ私を心配してくれてたかって」
そうだよ、お母さんはきっとぼくなんかよりよっぽどカナコちゃんを心配してきたに違いないよ。だって、カナコちゃんを生んだ人なんだから。
「ううん。別にどうもしてないよ。違うって。本当にそう思ったから。笑わんといてよ、せっかく勇気だして電話したのに。え? 照れくさいのは私も一緒よ。でもいうとかなあかんと思ったから。うん。だから何もないって。熱もないから。うん。こっちこそありがとう。うん、それだけ。え? 誕生日? うん、帰れたら帰るけど、ちょっとまだ……」
そうか、カナコちゃんも、もうすぐ二十七歳になるんだった。
「うん、でも今度のお正月には帰るから。うん、大丈夫。ひとりでちゃんとやってるから。うん、仕事も大丈夫、順調。わかったよ、気をつける。お母さんこそ体を大切にしいよ。はい、ありがとうね。また電話するから。うん、じゃあね」
良かった。何だかカナコちゃんが素直になったみたいだ。
カナコちゃんがお母さんと電話していて怒って切らなかったのって、ぼくが来てはじめてじゃないかな。だけど、良かったな。なんだかカナコちゃん、昨日より少しだけ元気になったみたい。
あれ、また電話?
「もしもし、ケイコ? 私、カナコ」
ケイコちゃんにかけたんだ! 謝るのかな。謝って仲直りするのかな。してくれるといいな。
「この前は……ごめん。私、どうかしてたみたい……」
ヤッター! 謝ってくれた。ケイコちゃん、許してあげて。お願い!
「ケイコ? 聞いてる? この前は、本当にごめんね」
神様、ケイコさま、お願いだからカナコちゃんを許してあげて。
「え? ホント? ホントに怒ってないの?」
怒ってなかったんだー! さすがケイコちゃん。
「うん、たしかに私どうかしてたけど……。そうなんだぁ、電話待っててくれたんだ。ありがとう。ホントにありがとう、ケイコ」
ありがとう、ケイコちゃん。
「え? ううん、結局ひとりも連れていけなかったの。そう、私、友達なんてケイコぐらいしかいないから。でも、連れて行かなくて良かったと思ってる」
そうだよ、あんないかがわしい集まりにケイコちゃんを連れていかなくて良かったよ。
「そんなにおかしかった? ふふ、もうあんまりいわないでよ。ふふふ、そうだけどさぁ。でも良かった。私、ケイコに電話するの、すごく勇気がいったもん。あんなこといっちゃったし。でも電話して良かった。ケイコ、許してくれてありがとうね」
わーい! ケイコちゃんとこれで仲直りだ! 良かったね、カナコちゃん。
「仕事? ううん、まだ。失業保険もらいながら、ちょっと考えようかと思ってて。え?広告の仕事? 興味はないこともないけど、私、何も知らないから……。え? 会わせたい人って? 独立? へぇ、そうなんだ。でも会ったって、私何もできないと思うよ。ホントにいいの? 私で? じゃあ、会うだけ。え? 明日? また急なんだね。うん、そりゃあ早い方がいいけど。うん、わかった。じゃ明日の何時? どこへ行けばいいの? うん、わかるよ。うん、わかった。じゃあ、明日あのお店で。うん、ありがとう、ケイコ。はい、じゃあ、明日」
なんだろう、仲直りできただけでも嬉しいのに、誰かに会わせてくれるって? しかも仕事っぽい話だね。これで新しい仕事まで決まったら、いうことないよ。
だけどケイコちゃんがカナコちゃんを許してくれて、本当に良かった。
- 寄生虫サナディー
第三十回
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第三十二回