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登場人物紹介

  • ◆サナディー:
      言葉を理解するサナダ虫

  • ◆カナコ:宿主

  • ◆ケイコ:カナコの親友

著者プロフィール

  • 穴澤賢(あなざわまさる)
    1971年大阪生まれ。
    ペットブログ「富士丸な日々」の管理人。
    著書に「富士丸な日々」、エッセイ「ひとりと一匹」などがある。

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第三十回

「あのねぇ、これだけはいっておくわ。どこの世界にもとやかくいう奴はいる。それはインチキだとか、ペテンだとか。やってもないくせにね。そんなの聞く必要ないのよ。体験したのは私たちなんだから。きちんと結果が出ているんだから」

「結果って?」
「私は、資格をとって福祉の仕事をするっていう目標ができた。そのために今頑張ってる!」
「それはユミが頑張っているんであって、別にコースを受けたからというより……」
「何いってるの! コースのおかげよ。コースを受けていなかったら、こうはなってなかった」
「コースの、おかげ……?」
「だってそうでしょ? 自分の可能性に気付いて、こんなに前向きになれたんだから。それって、コースを受けていなかったら、わからなかった。わからないまま、昔の私のようにうつむいて歩いてた。それに、運命の人だって見つかったのよ? これって凄いことじゃない?」
「サワダさんのこと? でもね、運命の人って、どうしてわかるの?」
「わからないの? 私たちを見ていて。カナコって想像以上に鈍感なのね。私とサワダさんは強く結ばれているの。出会う運命だったのよ。会った瞬間にそれがわかったんだから」

「それはいいんだけど、どうして新しく人を紹介する必要があるの?」
「それは、この経験をひとりでも多くの人に味わってもらいたいからじゃない」
「だけど、なんだか連れて行かないといけないような雰囲気って、どうなのかと思って」
「強制されてやるんじゃないの。自分でたてた目標をひとつひとつ達成していくことが大切なのよ。カナコは先週いってた目標も達成できてないじゃない。それって、どうなの?」
「たしかに先週はそういったけど……」
「少しずつでも自分の目標をクリアしていくこと。それによって当然結果は大きく変わってくる。どうしてそれがわからないの?」
「ごめん、それが今わからなくなってるの」
「どうして? その友達に何か吹き込まれたから?」
「違う。違うけど、いわれたことを考えてみると、そうかもしれないと思って」
「カナコ、あなたね、自分の意志はないの? 何でもかんでも人がいったから、誰かにいわれたから。それじゃ、変われるものも変われないわよ?」

「そうなんだけど、だけど人にいわれて気付くことってあると思うの」
「どうしようもないね、カナコは。まぁいいわ。それで来週には何人コミットメントとれそう?」
「だから、ちょっとの間、考えさせてくれない?」
「考えてどうするの?」
「どうするっていうか、よく考えたら私無職だし、職探しもせずに電話ばっかりかけてるわけにもいかないから」
「仕事が何だっていうのよ。私たちは仕事なんかより、もっと素晴らしい体験をしたじゃない? 違う?」
「でも、貯金だってそんなにないし、失業保険もいつまでも貰えるわけじゃないし。それにここの家賃も払わないといけないし」
「わかった。そんなに仕事がしたいなら、そうすればいいわ。だけどね、ベーシックコースを受けて、できるだけ間を開けずにアドバンスコースを受けた方がいいのよ。わかってる?」
「それは、わかってる」
「私は来週受ける」
「うん」
「受けて、私はもっと素敵になるの。素敵になって、素晴らしい人生を歩むの! カナコはそうなりたくないの?」

「ねぇ、ユミ。最初にいったけど、ほんとにしばらく私をそっとしておいてくれない? 効果があるのは、ユミのいう通りかもしれない。素晴らしい人生が待っているのかもしれない。でもね、私は私のペースで考えたいの。私、なんでも遅いから。それでもし、コミットメントをとることや、アドバンスコースを受けることが必要だって思ったら、私から連絡するから。必ず連絡するから。だから、お願い」
「……わかった。じゃ、ゆっくり考えてみて。カナコは素晴らしい人生を手に入れたくないのか、今までみたいに腐った毎日でいいのか、よーく考えてみればいいわ」
「ありがとう、ユミ」
「そんなもの、答えは決まってると思うけどね」
「最後にこれだけはいわせて。世の中にはね、知っていても勇気を出せない、疑ってばかりで損をしている人がどれだけ多いかってことを。そんな人間になりたい? そんなつまらない人生を送りたい? そんなの嫌でしょ?」
「うん、それは……」
「何をぐじぐじ考えているのか知らないけどね、後できっと私のいってることが正しかったって思うから」
「うん、わかった。それじゃ、今日は……」

「私、サワダさんと結婚の約束をしたの」
「結婚?」
「そう、結婚。サワダさんと」
「いつ?」
「まだはっきりはわからないけど、必ずしようって」
「そうなんだ。おめでとう」
「彼ね、今、奥さんと子どもがいるの」
「え? サワダさんって結婚してるの?」
「違うのよ。結婚っていっても今の奥さんとはもう冷めきっていて、かたちだけ一緒に住んでるの。彼、婿養子でね、今は奥さんの父親が経営する会社で働いているんだけど、自立心が高いからいずれは自分で新たな会社をって頑張ってたのよ。だけどあっちはいずれ取締役にしたいっていう思惑があるでしょう?」
「会社のことは良くわからないけど、そんなものなのかな」
「そういうものよ。で、ずっと人生に迷ってたのね。そんなとき、私と出会ったの、ベーシックコースで。彼とは偶然同じグループでペアになったんだけど、ダイアードで話すうち、あ、この人だって、私思ったの」
「それって、どんなふうに?」
「よく電気が走るっていうじゃない? ほんとにそんな感じ。カラダ中にビビビッってきて」
「へぇ、私はそんなの感じたことないけど」
「そしたらね、彼も同じだったの! 後で聞いたんだけどね、私を見た瞬間に電気が走ったんだって!」

「へぇ、すごいね」
「ね? これって運命でしょ? でね、彼ね、私といると、とても心が落ち着くんだって。もちろん私もよ。でね、今まで悩んでたけど、奥さんとは離婚して、今の会社もきっぱり辞めて、いちからやり直す気になったんだって! こう思えるようになったのは君のおかげだよって!」
「そうなんだ」
「だからね、今とっても幸せなの、私。彼も年内には離婚を成立させて、どこかに小さなアパートを探そうって。狭くたって、お金がなくなって、ふたりで頑張ろうって!」
「そうなんだ。でも、今いる子どもは?」
「知らない。奥さんが面倒見ればいいんじゃない? 私は嫌よ、そんなの。なんで他人が産んだ子どもの面倒なんか見なくちゃならないのよ」
「サワダさんは何ていってるの?」
「ふたりだけで暮らそうって。いちからやり直すんだって。彼、アルバイトしてでも会社を立ち上げる資金を作るんだって、意気込んでるの。素敵よ、何か目標がある人って。私も頑張って働いて、彼を支えないと。そのためには、まず資格を取らないと。私、やるわよ。やってみせる!」

「ユミ、悪いんだけど……今日は、もう」
「わかってるわよ。帰るわよ。必ず、連絡ちょうだいね」
「ユミのいってることが正しいと思ったら、必ず連絡する」
「なるわ。なるに決まってるじゃない。じゃあ、ひとりでゆっくり頭冷やすのよ、カナコ」
 
頭を冷やすのはどっちだよ。
今日ではっきりわかったよ。ユミって人はおかしい。変なことばかりいってる。そのくせ、自分は正しい、間違ってるのはぜんぶカナコちゃんだと思ってる。
どうかしてるのは、ユミって人だ。
カナコちゃんの方が、しっかりしてるんだ。

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