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登場人物紹介

  • ◆サナディー:
      言葉を理解するサナダ虫

  • ◆カナコ:宿主

  • ◆ケイコ:カナコの親友

著者プロフィール

  • 穴澤賢(あなざわまさる)
    1971年大阪生まれ。
    ペットブログ「富士丸な日々」の管理人。
    著書に「富士丸な日々」、エッセイ「ひとりと一匹」などがある。

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第二十九回

不思議なことに、サトルが帰った後からカナコちゃんは勧誘の電話をかけなくなったんだ。ケイコちゃんがあんなに心配してくれたときには一切耳を貸さなかったのに……。どうしてだろう。
 
翌日からも、カナコちゃんは電話をかけたりしなかった。しなかったけど、それ以外のことも何もしなくなった。ひたすら家でぼーっとしていたんだ。
ぼくには、カナコちゃんが頭の中で何を考えているのかまではわからない。
誰かと話したり、動いてくれれば、だいたいどんなことを思っているのかはわかるんだけど、黙ってじーっとされたらわからないんだ。
カナコちゃん、いったい何を考えているんだろう。
食べる物もろくに食べず、ひたすら黙って考え込んで。
 
そんな調子で何日かが過ぎた頃、ユミって人から電話があった。でも、カナコちゃんは「ごめん、ちょっと経ったら、こっちからかけなおすから」といっていた。その後もしつこく電話はかかってきたんだけど、そのうち電話にも出なくなったんだ。
カナコちゃん、今、何を考えているの?
何か話してよ。
 
それでも電話はかかってきた。カナコちゃんはでなかったんだけど、日を追うごとに回数は増えてきて、一日に二十回以上電話がかかっているようになったんだ。たぶん、ユミって人からだと思う。ほんとうにしつこい人だな。カナコちゃんが電話をかけなくなったのはいいけど、これじゃあ一緒じゃないか。電話って、面倒なものなんだな。

とにかく、今はカナコちゃんをちょっとそっとしてあげてくれないかな。きっと今、大事なときなんだから。あれ? また誰か来たみたいだ。

「誰?」
「なんだ、やっぱり居るんじゃない、カナコ」
「ユミ?」
「そうよ! どうして電話に出ないの? 今さっきだってかけたのに」
「ユミ……、どうして私の住所知ってるの?」
「聞いたのよ! ベーシックコースを申し込むときに記入したでしょ。そんなことより、どうして電話に出ないのよ。ドアを開けて説明してよ!」
「ちょっと、考えたいことがあって」
「コミットメントは? 今週コミットメントは取れたの?」
「……ううん」

「何があったの? いいからドアを開けて!」
「ごめん、できないの」
「どうしてできないの?」
「ちょっと今、ひとりで考えたいことがあって」
「そんなのカナコの都合でしょ! せっかく来たあげたっていうのに」
「それはユミが自分で……」
「いいからドアを開けて!」
「ごめん、ユミ」
「いいわ。じゃあここで叫んでもいいのね?」
「ちょっと、止めてよ、そんなこと」
「カナコが悪いんでしょ。人を馬鹿にするんじゃないよ!」
「ちょ、ちょっと、大きな声出さないでよ」
「マンション中に響き渡るこえでいってやる。嘘つきだって!」
「私、嘘なんかついてないよ」
「ついてるじゃない! コミットメントをとるっていってたじゃない! それに急に電話に出なくなるし。だから心配して来てやったっていうのに、部屋にも入れてくれない! この嘘つきっ!」
「ちょっと、ユミ!」
「嘘つき! 嘘つき! 嘘つき! みなさーん! ここに住んでいる人は嘘つきです!」
「わかった! わかったから止めて!」
「何をわかったっていうのよ、嘘つきのくせに!」
「今ドアを開けるから大きな声を出すのは止めて。何時だと思ってるのよ。近所迷惑じゃない」
「迷惑かけてんのは誰よ!」
「いいから入って」

「へぇ。結構こぎれいにしてるじゃない、カナコ。ここ家賃いくらなの?」
「ちょっと、勝手にずかずか入らないでよ」
「で、どうして電話に出ないの?」
「ちょっと待って。ちょっと冷静になってよ」
「私は冷静よ。カナコの方こそどうしたの? そんな怯えた目をして」
「だって、大声で叫んだりするから……」
「そうでもしないと入れてくれなかったでしょ? だからよ」
 なんだよコイツ。突然やってきて強引に部屋にまで入ってきて。何をするつもりなんだよ。カナコちゃん、大丈夫かな。
「私の質問に答えて。どうして電話に出ないの?」
「それは……ちょっと、ひとりで考えたいことがあって」
「何? 考えたいことって?」
「……」

「今日って、何曜日か知ってる?」
「水曜日だけど……」
「カナコ、先週いったよね? 来週の説明会には必ずひとりコミットメントをとりつけるって? 今日がその一週間後、水曜よ」
「それはそうだけど……」
「そうだけどじゃないわよ。今日私がどれだけ恥をかいたかわかる? 友達のカナコって子が新しい人を必ず連れてきますっていってたのに!」
「ちょ、ちょっと、落ち着いてよ」
「落ち着いてるわよ。それより、何? カナコは客が来てもお茶も出さないの?」
「ごめん。だけど、ちょっと時間をくれない? だから今日はもう帰って」
「どうしたのよ、カナコ。あのやる気はどこへ行ったの? 頑張るっていってたじゃない? それが急に考えさせてくれだなんて」
「それなんだけどね、私が受けたのって自己啓発セミナーっていうの?」
「は? 何いってんの? ヒューマン・ダイヤモンド・インターナショナルのベーシックコースだっていったじゃない?」
「名前が違うだけで、やってることは自己啓発セミナーと一緒だって」
「誰がそんなこといったの?」
「友達……」
 
やっぱり、サトルにいわれたからだったんだ。

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