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登場人物紹介

  • ◆サナディー:
      言葉を理解するサナダ虫

  • ◆カナコ:宿主

  • ◆ケイコ:カナコの親友

著者プロフィール

  • 穴澤賢(あなざわまさる)
    1971年大阪生まれ。
    ペットブログ「富士丸な日々」の管理人。
    著書に「富士丸な日々」、エッセイ「ひとりと一匹」などがある。

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第二十八回

「友達、なくすよ?」
「どういう意味?」
「まだ生き残ってたんだね、そういうセミナー。もうすっかり無くなったかと思ってたよ。それに、まさか引っかかる人がいるとは。まして、カナコが」
「引っかかるっていい方やめてよ!」
「だって、現に引っかかってるんだから仕方ないじゃん」
「引っかかってなんかいないよ。私は私の意志で行動してるんだから」
「それが、引っかかってるの。バカだねぇ。気付こうよ、いい加減」
「何に気付けっていうのよ」

「洗脳されてることにさ」
「洗脳なんかされてないよ」
「あのさ、自己啓発セミナーっていうのは、うまくできてるんだよ。ある程度、心理学に基づいてやってるから。体験した人がいっときおかしくなるのもわかる。そういうふうにできてるからね」
「できてるって、何がよ」
「誰だってさ、初対面の人から第一印象をズバズバいわれたりさ、面と向かって辛い体験をいえとかさ、しかもそれが閉ざされた空間で、長時間行われたらおかしくなるってこと」
「……どういう意味よ」

「自我の崩壊ってやつだよ」
「自我の崩壊、って?」
「それまでの自分の価値観とか、そういうのを一回全部ぶっ壊すのさ」
「私、別に壊されてなんかいないもん」
「まぁいいや。今いっても仕方ないか。でさ、音楽とか、照明とか、巧みな演出があったりもしただろ?」
「それは、まぁたしかにあったけど、それが何だっていうのよ」
「別にいいんだよ。誰もが磨けば光るダイヤモンドだとかなんとかいうのは。それで自信がつくならね。だけどさ、自己啓発セミナーはタチが悪い。ある意味変な宗教よりタチが悪い」
「タチが悪いって、何がよ」

「俺はさ、人が何を信じようが信じまいが個人の勝手だと思ってんだよ。端から見たらそれがいくら滑稽に見えたって、本人がそれで報われるってこともあるからさ。そういう意味でいえばさ、その度合いが強いか弱いかだけのことだけで、誰だって何かしらに洗脳されてるっていったっていいかもしれない」
「じゃあ私のこともほうっておいてよ」
「でも、自己啓発セミナーはやめときな」
「どうして?」
「どこまでも営利目的だってことさ。それに洗脳するにしても中途半端すぎる。どんな宗教にも教えや信仰は必ずあるもんだけど、セミナーにはそれがない。ひたすら金儲け」
「金儲けって、何がよ」
「自我の崩壊まではやるくせに、その後のフォローがない。壊したら壊しっぱなし。頑張れよ、で終わり。しかもそれが、勧誘を頑張れよ、だったりする。コミットメントとか何とか変な呼び方してるけど、単なる勧誘だからね」
「……」

「でも洗脳が中途半端だから、しばらくすると気付きはじめるんだよ。あれ? おかしいぞってことにね。だからそうなる前により過酷な合宿なんかに連れて行こうとするのさ。実際誘われなかったか? もっと幸せになるための上級者向けとかいって。だけど、結局そこでもやることは一緒なんだよ」
「一緒って?」
「大勢でひとりを罵倒したり、辛い経験を語り合ったり。それを早朝から晩遅くまで閉鎖された中でやるのさ。まして合宿だから普段の社会生活とは切り離されてる。そんなことばっかりしてたらどんなに精神が強い人でもおかしくなるよ。カナコが受けたのはまだ最初だけだろ?」
「そうだけど……」
「もう止めとけって」
「どうして? 私、アドバンスコースも受けるつもりだったのに」
「それ、いくら?」
「三日間で十八万円」
「そんなお金どこにあんの?」
「ないけど、何とかして受けたいから」
「もっといいことに使いなよ。俺に貸すとか」
「……」

「睨むなよ。冗談だよ。でも十八万あったら何ができるよ? どこかへ旅行にでも行った方がよっぽどいいよ」
「だけど、自分の可能性について……」
「あのさ、自己啓発セミナーにハマった人が最期にどうなるか知ってる?」
「知らない。どうなるの?」
「しつこい勧誘で友達はみんな離れていって、気付いたときにはひとりぼっち。もう精神的にも肉体的にもボロボロになるケースが多いらしい」
「……」
「昔さ、事件があったじゃん。あるおっさんが病人を治してやるとかいって病院に一切連れていかないで、ひたすら部屋の中に閉じこめた結果、ミイラになっちゃったっていうの。アレもそうだよ。あの場合、自己啓発セミナーとはちょっと違って、宗教がちょっと入ってたんだけどね。ま、あのおっさんだって元はといえば、セミナー通いをやってたんだから」
「そうなの?」
「受けまくってたらしいよ。で、いつの間にかセミナーを開催する側になって、何だか知らないうちに教祖みたいになってたっていう。結局あの事件から急速に自己啓発セミナーが下火になったんだけど、まだあったんだねぇ。いつの時代も騙される人ってのはいるもんだね」
「私は騙されたとは思ってないよ」

「最初にいったけど、自己啓発セミナーは営利目的のビジネスだからね。だって、どう考えても金儲けじゃん。ボランティアじゃないし、いちいちそんな高い金取る意味がわかんないよ。ましてや、一度セミナーを受けた人に勧誘させる。今、カナコはセミナー主催者の営業マンになってるんだよ。そこに気付きなよ」
「だって、勧誘は自発的にやってるんだから」
「ま、いいや。カナコがそう思うんなら、行くところまで行けばいいよ。だけど、友達は大事にした方がいいよ。もし、友達に声をかけまくってるなら止めた方がいい。ビジネスと友達は別だからさ。まして、カナコには一銭も入らない」
「お金が欲しくてやってるわけじゃないもん!」

「主催者には入るんだよ、しっかりと」
「……」
「良かれと思ってやってるのかもしれないけどさ、そういうのを大きなお世話っていうんだよ。それにさ、こんなバカバカしいことで友達なくしたらさ、ま、いいや。カナコ、セミナーを受けてから何日経った?」
「ちょうど一週間」
「じゃ、もう少しかかるか。とにかく、次のコースに行きたいにしても三週間はじっくり考えてみな。その間、セミナーで知り合った人とは連絡を絶った方がいいな。今、自分がやっていることをちゃんと考えてみなよ。三週間たっても同じ考えなら、セミナーの営業マンでもなんでもやればいいさ。ま、ちょっと冷静になってみな」
「私は今だって冷静だよ」

「ふーん。ならいいけどさ。だけどもし、後で自分が間違っていたと思うなら素直に認めた方がいいよ。悪いと思ったら素直に謝った方が楽だから。これまで勧誘した友達にも謝った方がいい。俺からいえるのはこれぐらいかな。三分っていってたのにずいぶん長居して悪かったね。じゃ、ほんとにもう来ないから」
「どうして、サトルは私にそんな忠告をするの?」
「うーん、なんでだろ」
「私のことなんて、どうだっていいはずじゃない」
「それでもほら、昔付き合ってた彼女がおかしくなるのは、見てられないじゃん」
「……」

「あ、そうだ。これ、返しとくよ」
「何? これ」
「十万入ってる。たしか十万だったよね? カナコに借りてたの」
「うん……でも、返してくれるの?」
「返すっていったじゃん。送ろうと思ってたんだけど、住所覚えてなくて」
「……」
「じゃあ俺、帰る。元気でな、カナコ」
「う……うん」
 
そうだったんだ。セミナーっていうんだ。サトルって何でそんなこと知ってんだろう。カナコちゃんより年下のくせに、変な奴だよなぁ。だけど、サトルがいってた忠告って、たしかにそうかも。
これでカナコちゃん、気付いてくれたらいいのにな。

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