エピソード
登場人物紹介
◆サナディー:
言葉を理解するサナダ虫
◆カナコ:宿主
◆ケイコ:カナコの親友
著者プロフィール
「あ、ユミ? ごめん、明日の説明会、ひとりもコミットメントできなかったの。ううん? 電話はたくさんしたよ。うん、ものすごく。そう、いわれた通り、学生時代の名簿とか引っ張り出して。うん、でもみんな忙しいとかいって。やる気? もちろんあるよ。うん、がんばってコミットメントする。来週ね? うん、わかった。来週には必ず誰かひとりでもコミットメントをとるわ。ありがとう、私、頑張る。うん、それじゃあ」
まだやる気だよ、カナコちゃん。どうしたもんだろう。止めさせたいけど、ぼくにはそんな力ないしなぁ。弱ったなぁ。ん? 誰か来たみたいだ。誰だろう?
「誰?」
「あ、俺。サトル」
「もう来ないっていったじゃない」
「そうじゃないんだ。忘れ物、腕時計」
「何? どこにあるの? 取ってくるからいって」
「それがさぁ、たぶん俺じゃないとわからないんだよね」
「どうして?」
「何カ所か心当たりがあるんだけど、どこに置いたか思い出せないんだ。だから、俺が探した方が早いの。いいから、ドア開けてくんない? 何もしないから」
「……」
「ほんとに腕時計取ったらすぐ帰るって」
「ほんとに、すぐ帰ってくれる?」
「帰るよ。誰かいてまずいなら出直すけど」
「誰もいないけど、今私、忙しいのよ」
「それなら、五分、いや三分で帰るよ」
「わかった」
入れちゃったよ、カナコちゃん。なんでこんなときにコイツが来るんだよ。帰れよ、早く。
「さんきゅー。俺さぁ、いっつも無意識に時計とかどっかに置いちゃうんだよね。それがたぶん、三カ所ぐらいあってさ」
「いいから、さっさと探して帰ってよ」
「嫌われてるねぇ。ま、いいけど。えーと、どこだったかなぁ。ここじゃないとすると、スピーカーの上かなぁ」
「ないの?」
「ちょっと待って」
「ちょっと、一分経ったよ」
「わかってるって。あ、あったあった。ここだったか」
「あ、前にケイコにもらったワイン。なんでそんなところにひっかけてるのよ」
「いや、なんとなくハマリ具合が良くて」
「全然気付かなかった。いいから、それ取ったら帰ってよ」
「この時計さ、亡くなったおばあちゃんが成人式に買ってくれたんだよね。他の時計だったら諦めるとこなんだけどさ。ちょっと、これだけは」
「わかったよ。見つかったんなら、用は済んだでしょ。早く帰って」
「はいはい。ん? これ、何?」
「何って?」
「この電話の前に貼ってある紙」
「別になんでもないよ」
「ナニナニ? 週に、三人以上コミットメントする、自分の可能性を開く、運命の人と出会う、ってこれ何? なんでこんなの書いて貼ってんの?」
「それは……目標。そう、目標よ」
「目標って? 運命の人に会うのが?」
「そう。自分の目標を書いて、いつも見えるところに貼ってあるの。悪い?」
「悪くはないけど、それって、願望じゃないの?」
「願望じゃないわ。自分で強く願えば叶うのよ」
「何の根拠があって、そんなこといってんの?」
「いいじゃない、別に」
「ま、別にいいけどさ。で、週に三人以上コミットメントっていうのは、何?」
「それは、ちょっと、今頑張ってることがあって」
「ふーん」
「何よ、その顔」
「いや、別に」
「ならほっといてよ」
「カナコさ、自己啓発セミナーでも受けに行った?」
「行ってないよ。なんでそんなこと聞くの?」
「コミットメントって、セミナー用語だからさ」
「そうなの知らないよ。でも私が受けたのは別に変なセミナーじゃないんだから」
「じゃあ、何を受けたの?」
「ベーシックコース。ヒューマン・ダイヤモンド……あ、いっちゃいけなかったんだ」
「やっぱり、自己啓発セミナーじゃん」
「違うって」
「最近は自己啓発セミナーって言葉のイメージが悪いからって、何かと呼び名を変えてるんだよ。やってることは同じなんだけどね」
「違うって。どうしてそんなこと知ってるのよ」
「俺、その手のいかがわしい話、大好きだからさ」
「サトルも受けたの?」
「受けないよ、バカバカしい。だけど、本とかたくさん読んだから、だいたいわかるよ。何やってるかぐらい」
「想像でものをいわないでよ……」
「最後に花束もらうパターン?」
「ど、どうして知ってるの?」
「だから知ってるんだって、それぐらい。あと、アレでしょ。膝がくっつくぐらいに座ってやるやつ、なんていったっけ?」
「ダイアード……」
「そうそう、ダイアード。それで相手の第一印象をいったり辛い体験とか話したでしょ?」
「したけど……」
「最後は、アレでしょ? 泣いて叫んだんでしょ?」
「うるさいな! 受けてもないのにとやかくいわないで!」
「なるほどね。カナコ、受けたんだ。どうりで目つきはおかしいし、声がでかいと思ったよ」
「私は前の私じゃないの!」
「悪いことはいわない。もう止めな、そういうの」
「何? どうして?」
なんだろう、サトル。急に現れたかと思ったら何をいいだすんだろう。
だけど、カナコちゃんがおかしくなった原因について、何か知ってるのかな。
お願いだよ、サトルでも誰でもいいから今のカナコちゃんをどうにかしてよ。
- 寄生虫サナディー
第二十六回
- 寄生虫サナディー
第二十八回