エピソード
登場人物紹介
◆サナディー:
言葉を理解するサナダ虫
◆カナコ:宿主
◆ケイコ:カナコの親友
著者プロフィール
コースが終わったのは夜の遅い時間だったのに、カナコちゃんはユミって人と話し込んでいた。ユミって人が運命の出会いだったというサワダという男も現れたんだ。二人は出会ってまだ二ヶ月だけど、結婚を誓い合ったんだってさ。ユミって人とその男はしきりにコースは素晴らしかったでしょうっていってた。カナコちゃんも興奮冷めやらぬという感じで、激しく同意していたんだ。
それなら、ぜひアドバンスコースを受けるべきだと二人は勧めてきた。実際、その男の方はすでに受けていて、ユミって人も来月受けるんだって。カナコちゃんがさすがにそのお金をつくるのが今はしんどいというと、じゃあ一週間後に行われるコースの説明会に誰かを誘って連れてくるようにっていうんだ。こんなに素晴らしい体験を友達に勧めないなんて、もったいない。だから、ひとりでも多くの人にコースを受けてもらいたい。そうは思わないか、というんだ。
なるほどなぁ、それでユミって人もカナコちゃんを説明会に誘ったんだね。
来週までにひとりでも説明会にくるとコミットメントすること。そう約束してカナコちゃんは帰宅した。ちなみに、コミットメントとは、どうやら「約束」という意味みたい。なんでそのまま約束っていわないんだろうね。
翌日からのカナコちゃんは、異常だった。お腹の中からでもわかるほど。
朝から晩まで、ひっきりなしに電話ばっかりかけるんだ。昔の名簿を引っ張り出したりして、古い知り合いに電話しては「今度集まりがあるから一緒に行かない?」といっていた。たぶん、ユミって人にいわれたとおり、説明会に連れていく人を探してるんだろうね。でもほとんどの場合、ちょっと話しただけで電話を切られているみたいなんだ。コミットメントなんてひとつもとれない。それでもカナコちゃんは諦めなかった。
もう、やめようよ、カナコちゃん。
もっと他にすることがあるじゃない。ご飯だってろくに食べていないし、夜もそんなに眠っていない。何より、仕事はどうするのさ。働きもせず、仕事も探さず、朝から晩まで電話ばっかり。
たしかに、カナコちゃんは変わったよ。自分からそんなに電話をかけまくるような人じゃなかった。一度断られたら、すぐに諦めるような人だったさ。
でも、なんだかおかしいよ、カナコちゃん。
ぼくはそんなふうに変わって欲しかったわけじゃないんだ。
自分で考えていることを、ほんの少しでもいえるようになって欲しかっただけなんだ。
今のカナコちゃんは、ユミって人やトレーナーがいっていたことを鵜呑みにしているだけじゃないか。どうしちゃったの? カナコちゃん。引っ込み思案でも何でもいいから、前のカナコちゃんに戻ってよ。お願いだよ、カナコちゃん。
それでもカナコちゃんは連日電話をかけまくり、五日経った。
とうとう、ケイコちゃんを誘っているようだった。正確には最初の頃にケイコちゃんにも電話したんだけど、あっさり断られたみたい。だけど、他の誰ともコミットメントができないもんだから、最終的にまたケイコちゃんを誘おうとしてるんだろうね。
あまりにしつこいカナコちゃんに、さすがのケイコちゃんも話だけは会って聞いてみるということになったみたい。
明日、待ち合わせ場所と会う時間をコミットメントしていた。あ、これは説明会に行くという約束をしたわけではないから、コミットメントとはいわないのかな。ま、どっちでもいいや。とにかく、ケイコちゃんと会う約束だけはしたみたいだった。
ケイコちゃん、今のカナコちゃんを見てなんていうんだろう
「で、カナコ。何の集まりだっていうの?」
「ごめんケイコ。それはいえないのよ」
「いえないって、あんた行ったんでしょう? その集まりに。それで私を誘ってるんじゃないの? それがなんでいえないのよ」
「そういう決まりなの」
「あ、そう。じゃ、行かない。私、説明ができない集まりになんて行けないから」
「違うの! 行けば本当に感動するから!」
「感動……?」
「そう、感動するの! これまでの自分の生き方がいかに間違っていたか。これからの生きる希望みたいなことがね」
「ちょっと、待って。私、別に今までの生き方が間違ってるなんて思ってないから」
「そうじゃなくて。ほら、その考えがまず違うのよ! 自分がよく見えていないのよ」
「大きなお世話よ。とにかく私、そんな集まりには行かないから」
「そんなこといわないでよ。ケイコが最後の望みなんだから」
「何、最後の望みって? なんかノルマでもあるの?」
「そんなのないよ。あくまで自発的にやってるの。ケイコにも体験してもらいたいって心の底から思ってるからいってるの。私を信じて!」
「信じてっていわれても、ねぇ。やっぱり、それって、宗教かなんかじゃないの?」
「違う! 絶対そんなんじゃない!」
「どうしたの? 急に大きな声出して……」
「ほんとに違うの。だけど、きっとケイコのためになるわ。私が保証する。だから、ね? だから明日の説明会に一緒に行かない?」
「ごめん、明日は大事な会議があるのよ」
「会議と人生とどっちが大切なの?」
「会議、今はね。明日の会議で私の企画が通るかどうかってときなのよ」
「嘘だわ。会議の方が大切だなんて。よく考えてみて。人生っていうことを」
「ねぇ、カナコ。大丈夫?」
「何が?」
「あんた、何か変よ?」
「どこが?」
「声がやたら大きいし、目つきもなんかおかしいし」
「そう? それは私が自分の可能性について、気付いたからじゃない?」
「可能性……? ちょっと、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫よ!」
「それよりケイコ。明日の説明会だけど」
「ごめん。ほんとに明日は大事な会議があるのよ」
「会議なんてなんとかなるじゃない!」
「ちょっと……、いい加減にしてくれない? 電話で何度もいうから会うだけっていったでしょう? 行くなんてひとこともいってないよ? それに、電話でカナコのようすがおかしかったから心配してこうして来たんじゃない。私、今本当に仕事大変なんだから」
「だけどね、仕事だけじゃないでしょう?」
「もちろん仕事だけじゃないよ。だけど、大事なときっていうのは、あるの」
「説明会より?」
「そう。説明会より」
「私がこんなに勧めてるのに?」
「ごめん。悪いけど」
「私より、仕事が大切っていうのね?」
「そうはいってないよ。ただ、今はね、ちょっと」
「わかったわ! もうケイコなんて友達じゃない!」
「ちょっと、それ……本気でいってるの?」
「本気よ。私がケイコのことを思って説明会に誘ってるっていうのに」
「私のことを思うなら、私の仕事のことだって考えてくれたらどう?」
「そんなのできるわけがない! 仕事が何だっていうの? 人生の中で、仕事なんてたかがしれてるじゃない! 私はそんなレベルの話をしてるんじゃないの!」
「わかったわ……。これ以上話をしても無駄みたいね、カナコ」
「本当に明日は来てくれないのね?」
「うん。私は行けない」
「そんな人だと思わなかった。もう友達でも何でもない」
「ちょっと……何なのよそれ」
「さようなら、ケイコ」
「わかった。ほんとにそれで、いいのね? カナコ」
「もういい!」
良くないよ、カナコちゃん。ちっとも良くない。
ケイコちゃんは、カナコちゃんのたったひとりの気を許せる友達じゃないか。仲良しだったじゃないか。たくさん相談にも乗ってくれたじゃないか。二人で会うと、いつも楽しそうだったじゃないか。
どうしてそんなこというのさ。
友達がいなくなったら、カナコちゃん、どうするのさ。
近ごろのカナコちゃん、どうかしてるよ。
それでも、ぼくは……。
- 寄生虫サナディー
第二十五回
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第二十七回