エピソード
登場人物紹介
◆サナディー:
言葉を理解するサナダ虫
◆カナコ:宿主
◆ケイコ:カナコの親友
著者プロフィール
コースっていうのは、説明会があった日から、ちょうど一週間後に行われるっていっていたけど、あれからしょっちゅうユミって人から電話がかかってくるんだ。たぶん、ちゃんと来るかどうかの確認みたい。大丈夫だよ、カナコちゃんは約束だけは守るんだから。ぼくが保証するよ。
待ち遠しかった一週間。今日やっと、コースを受ける日が来たんだ。
いよいよかぁ。楽しみだなぁ。
「ありがとうね、ユミ。こんなに朝早くから付き合ってくれて」
「何いってんのよカナコ。紹介者として当然じゃない。あ、気にしてたお金の件だけど、大丈夫?」
「うん。貯金おろしてきた。次の仕事が決まるまでちょっと節約しないと」
「そうだね。でも、それだけの大金を払っても受ける価値はあるコースだから、しっかりね」
「うん」
「今日は私、会場に入れないけど、外で時間つぶして待ってるから安心してね」
「ありがとう」
そのコースが行われるっていう会場についたら、ユミって人はどっかに行っちゃったみたい。聞こえてくる音からすると、結構たくさんの人がいるのかも。それでも説明会よりはちょっと少ないのかな。んー、ひとりで大丈夫かな、カナコちゃん。心配だな。でもまぁ、ぼくがついているさ。何もできないけど、しっかり見守っているからね。
「えー、本日は、私どものヒューマン・ダイヤモンド・ベーシックコースにお集まりいただき、誠にありがとうございます。私が本日のコースを担当させていただくトレーナーのウエノと申します。私のことはコース中、トレーナーと呼んでください。また、会場には様々なお手伝いをするスタッフがおります。そちらはアシスタントと呼んでください。それでは、コースをはじめたいと思います。早速ですが、これからみなさんに五分間差し上げます。その間、できるだけたくさんの人と挨拶してください。それではどうぞ」
なんだよ。いきなりそんなこといわれてカナコちゃんが自分から挨拶できるわけないじゃないか。ほら、やっぱりカナコちゃん、動こうとしないよ。あれ、でもまわりの人たちの声も聞こえないな。
「えー、五分経ちました。この五分間に十人以上と挨拶した方、挙手してください。いないようですね。では、五人以上と挨拶した方。いない……と。いいですか? これが今までのあなたたちの生き方です。自分から動こうとしない。ひたすら相手を待つ。そういう行いがこの五分に出たのです。そして、この五分の積み重ねが人生なんです。そうやって、あなたがたは損をしてきた。このままでいいんですか! このままで! このままでいい、という人は今の段階でこの部屋から出て行ってください! さぁ遠慮せずに! いませんか?」
何? なんでこの人いきなり怒鳴ってるんだろう。
「いないようですね。では、残っているみなさんは、本気で自分を変えたいと思っている。そう解釈していいですね? ではこれから行われるコースは真剣に、真面目に取り組んでください。中途半端な覚悟で参加されている方がいたら、即刻退場してもらいます。いいですね」
想像していたのと違って何だか厳しそうだなぁ。
カナコちゃん、大丈夫かな。
「それではコースをはじめたいと思いますが、コースにはいくつかルールがあります。これをグランドルールと呼びます。今日一日、コースが終了するまではこのルールを必ず守ってください」
「まずひとつ、誰かが発言したら必ず拍手をしてください。これは賛成反対という意味ではなく、あなたの意見を聞きましたよという合図です。次に、このコース内で聞いた他人の体験を決して他言しないこと。コース中は私語をしない。コースの内容を録音、録画しない。休憩時間以外は指示なく席を立たない。トレーナーおよびアシスタントの指示にすみやかに従う。以上、六つのグランドルールを守ってください」
なんだか堅苦しいなぁ。いったい何がはじまるっていうんだろう。
「では、みなさんが現在悩んでいること、またこのコースによって自分がどうなりたいか、思っていることを挙手して発言してください。いいですか? はじめにいったように、消極的では何も変わりませんよ。もうコースははじまっているのです。さぁ、みなさん、自分の意見がある方は手をあげて。いいですね。はい、そこのあなた」
「はい。わ、私には結婚している主人がおりますが、関係は冷め切っています。でも、別れて自立する自信がなく、決断できずにいます。それをはっきり決めたいとこのコースを受けてみることにしました」
「みなさん、拍手を! 素晴らしい。最初に発言するには大変勇気が必要だったことだと思います。それができただけでも、すでにあなたは変わりはじめています。大丈夫、コースが終わる頃には、あなたはきっと以前のあなたではなくなっていますよ。他には? 誰かいませんか? はい、そこのあなた」
「私には六十五になる母がいるのですが、未だにそりが合いません。仲良くしたいと思っても、すぐに喧嘩してしまうんです。もっと素直になって、いい関係になりたくて……」
「彼女に拍手を! お互いを思いやる心、ぜひこのコースで身につけてください。あなたなら大丈夫です。はい、他の方は? えー、そこのあなた」
「私は現在、小さいながらも会社を営んでいるのですが、昨年から何をやってもうまくいかず、自信を失ってしまいました。もっと、決断力のある経営者になりたいと思って、今日ここにやってきました」
「みなさん、拍手を! 何事も気持ちひとつでずいぶんと変わります。そこを学んで帰ってくださいね。さて、何人かの意見を聞いてきましたが、他人事だと思っていませんか? それは違いますよ。内容はそれぞれですが、これはみなさん全員の問題なのです。こういう気持ちを分かち合うこと、それが大切なのです。このコースではそれをシェアする、といいます。人の悩みを聞いてシェアすることが重要なのです。では、これからアシスタントの指示に従って、六名ほどのグループに分かれてもらいます。それぞれのグループで自分の悩みをシェアし合ってください」
みんないろいろ悩みがあるんだなぁ。カナコちゃんだけじゃないんだ。ニンゲンって、大変だなぁ。それにしても、カナコちゃんはやっぱり手もあげなかったよ。グループに分かれるっていってたけど、発言なんてできるのかな。
- 寄生虫サナディー
第十九回
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第二十一回