エピソード
登場人物紹介
◆サナディー:
言葉を理解するサナダ虫
◆カナコ:宿主
◆ケイコ:カナコの親友
著者プロフィール
「いいですか? 今日あなたたちは自分の本来の姿を知ることができた。次は、あなた自身が変わらなければいけないのです。変わりたいとは思いませんか? 変わるためには何をすればいいのか。その答えこそ私どもが行っているコースにあるのです。コースはベーシックコースからアドバンスコース、さらにそこからもっと上級者向けのコースへとつづいています。もちろん、上級者になればなるほど、より楽しい人生、より多くの幸福をつかめるチャンスが増えることはいうまでもありません」
へぇ、幸せにも段階があるんだぁ。すごいなぁ。
「本日、私どもとみなさんが出会うことができたのも何かの運命です。運命とは、常に必然なのです。そう、みなさんひとりひとりが今日ここに来ることになったのは、決して偶然ではありません。心のどこかで今の自分を変えたいと強く願っていたから。いいですか、何事も願わないと叶わないものです。願わないというのは、いってみれば「0」と同じ。一方、願うということは、それだけで「1」なのです。「1」はかけ算していけば、そこから十にも百にも、無限に増える可能性がありますが、「0」は「0」のまま。簡単にいえば「無い」か「有る」かという、それぐらい大きな差があるのです」
そうなんだぁ。ぼくは算数ができないからよくわからないけど、何となくいっていることはわかる気がするなぁ。
「考えてみてください。あなたがもし「0」だったら、もし自分を変えたいと思っていなければ、ここにはいるはずがないのです。いくら誘われても断ればいいだけですから。しかしあなたは今ここにいる。それは、自分で認めようが認めまいが、心のどこかでそう願っていたからです。ようは「1」のカードをすでに持っていた。その「1」を十や百、さらには無限に増やすお手伝いをするのが、私どもの役目なのです。先ほど、ベーシックコースを受けた方々の意見を覚えていますか? あれは嘘でもヤラセでもないですよ。事実です。あれが経験した方の生の声なのです。そして、こうしてあなたたちと私どもと出会うことができたこと、これもやはり事実であり、必然としかいいようがないのです」
そうだ、みんな自分は変われたっていってた。本当に変われるのかな。カナコちゃん、変わってくれるといいなぁ。
「どうですか、みなさん。いきなりこんなことをいわれて驚くのも無理はありません。そんなにいい話なら、なぜもっと有名にならないのか。なぜメディアが取り上げないのか。そう思いますよね? なぜそうしないのか。それは私どもが望んでいないからです。多くの人を相手にしようとすると、それだけひとりに対する比重が軽くなります。それでは最終的にその人のためにはならない。それなら、ほんの少しずつでもいいから、着実に幸せのお手伝いをさせてもらいたい。それが私どもの理念です。だからこそ、紹介者なしではこの会場にすら入れないというシステムをとらせていただいているのです。いうなれば、今日お越しになられたみなさんは、チャンスを手にしたということなのです」
そうかぁ、チャンスかぁ。ユミって人に感謝しないとね。
「どうですか、こんなチャンスを逃してどうするんですか? せっかく今日ここに来たんだから、まずはベーシックコースを受けてみたいとは思いませんか? 自分を変えたいとは思いませんか?」
カナコちゃんには、変わって欲しいです。
「ここで一端休憩をはさみたいと思います。最初に私語はつつしんでくださいといいましたが、今回は例外です。さきほどダイアードをつくったペアの人と少し話をしてみてください。もちろん、それ以外の人でもいいですよ。できるだけ知らない人とたくさん話をしてください。それでは、約十五分間の休憩をとります。その後は、またコースの説明などを詳しくさせてもらいたいと思います。それでは、休憩に入ります」
うーん。何だか話もしっかりしてるし、これは期待できそうだなぁ。
「エンドウさん、さっきはごめんね」
「あ、いえ、いいんです」
「こういうルールなのよ。私も最初はびっくりしたし、ショックだった。だって、私もエンドウさんと同じように何もいえなかったんだから」
「キミカワさんもそうだったんですか?」
「ええ。でもね、ベーシックコースを受けてみてわかったの。自分の本当の姿が。どう? 受けてみない? ちょっと金額は張るけど」
「そのコースって、高いんですか?」
「九万五千円。でもね、それだけの価値はあるのよ」
「私、今無職なんで、そんなお金はとても」
「九万五千円で人生が変わるのよ。安いもんじゃない?」
「でも……」
「あ、カナコ!」
「あぁ、ユミ」
「どうだった?」
「うーん……」
「あ、あなたもコースの卒業生?」
「あ、はい。サトウユミといいます」
「私はキミカワエツコ。今ね、エンドウさんにベーシックコースを受けてみるように勧めてたの」
「そうよ、カナコ。受けてみるべきよ」
「うん……でも、お金が。無職だし」
「貯金とか、ないの?」
「一応、少しはあるけど、それは失業保険をもらうまでの生活費だし」
「節約すれば大丈夫よ。自分を変えたくないの?」
「そりゃあ、変えたいけど……」
「ね、エンドウさん。私だって、きっとサトウさんだって、コースを受けてなかったら、こうはなってなかったの。ね、サトウさん?」
「はい。実は私も以前は引っ込み思案で、性格も暗くて、今のカナコみたいだったんです」
「ちょっ……、ユミ、私って、そんなに暗い?」
「うん。ひょっとしてさっきのダイアードでもいわれた? でもそうなのよ。私もそうだったからわかるの。だけどね、それがわかったのはベーシックコースを受けてから。受けてなかったら、今もあのまんまだったと思うわ」
「でしょう? 私もサトウさんと同じよ。ほら、エンドウさん。こんなチャンスはもう二度とないわよ」
「そうよ、カナコ」
受けちゃえ、カナコちゃん。お金なんか何とかなるよ。ベーシックコースっていうのを受けて、元気になってよ。
結局、説明会が終わる頃には、カナコちゃんはベーシックコースを受けることにしたんだ。受けることにした、というよりは断れなかったという方が正しいかもしれないけれど。キミカワって人と、ユミって人、それに後になってもう二人加わって説得されたんだから、気の弱いカナコちゃんが断れるわけないよね。
でもぼくは嬉しいんだ。カナコちゃんがベーシックコースを受けてくれることが。
だって、カナコちゃんがもっと自分の意見をしっかりいえるようになってくれたら嬉しいから。
ぼくはお腹の中からいろいろ試したけど、駄目だった。
駄目だったどころか、会社までクビにさせちゃって、カナコちゃんに悲しい思いをさせちゃった。それが、そのベーシックコースで元気になってくれるんだったら、大歓迎だよ。お金なんか、食べる分だけあったら何とかなるよ。ぼくもできるだけ余分な栄養をとらないように努力する。
だからカナコちゃん、頑張ってコースを受けてみて。
- 寄生虫サナディー
第十八回
- 寄生虫サナディー
第二十回