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登場人物紹介

  • ◆サナディー:
      言葉を理解するサナダ虫

  • ◆カナコ:宿主

  • ◆ケイコ:カナコの親友

著者プロフィール

  • 穴澤賢(あなざわまさる)
    1971年大阪生まれ。
    ペットブログ「富士丸な日々」の管理人。
    著書に「富士丸な日々」、エッセイ「ひとりと一匹」などがある。

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第十八回

「みなさん、着席されたようですね。先ほども申しましたが、私どもは誰もが素晴らしい人生を送る権利があると考えております。そこで我が社では、今よりもっと素晴らしい人生をおくることができるよう、具体的、かつ明確な方法をレクチャーするベーシックコースというものを用意しております。本日お集まりいただいた方の中には、すでにそのコースを体験なされた方もおります。そこでまず、そのコースを受けた方がどう変ったか、意見を聞きたいと思います。はじめてのみなさんは、その意見をどうか参考にしてください。えー、では、すでに我が社のコースを体験された方、挙手してください。えー、はい。そこの水色のシャツの貴方」

「はい! 私は、ベーシックコースを受講したんですが、それ以降、人の話を素直に聞けるようになりました!」
「素晴らしい。みなさん、彼に盛大な拍手を。次、そこの、緑の服を着た貴方」
「はい! 私は、以前より自分の意見がいえるようになりました!」
「素晴らしい。彼女にもどうか拍手を。次、そこの貴方」
「はい! 私は自分の可能性について、とても自信が持てるようになりました!」
「素晴らしい。拍手を! 次、そこの貴方」
「はい! 私は営業をしておりまして、成績が伸び悩んでいたんですが、コースを受けてから自信がみなぎるようになり、以前に比べたらかなりの成績が出せるようになりました!」
「素晴らしいじゃないですか。みなさん、拍手を! えー、本当はもっとたくさんのお話を伺いたいのですが、なにぶん時間がございますので、この辺にさせていただきたいと思います。本日、はじめてお越しになられた皆さん、どうですか? 我々が行うコースを体験された方々は、みなさん以前に比べたら自分は変われた、人生が素晴らしくなったとおっしゃる。それこそが、私どもの行っているコースの成果です」
 
すごいなぁ。ベーシックコースってどんなコースなんだろう。みんな以前に比べたら幸せだっていってるよ。カナコちゃんも幸せになれるかなぁ。

「さて、みなさん。次はダイアードをつくってください。ダイアードとは、イスに座った状態でお互いの膝がくっつくぐらいまで近寄って、視線を合わせるかたちのことをいいます。さぁ、今隣に座っている人の方へイスを動かして、ダイアードをつくってください」
 
なんだろう、ダイアードって。はじめてそんな言葉聞いたよ。それにしてもカナコちゃん、初対面の人と話せるのかなぁ。心配だな。

「出来ましたか? ペアのいない人はいませんか? 大丈夫ですね? ペアの方の名前は名札で確認してください。では、これからペアになった人の印象をお互いに一言ずついい合ってください。いいですか、あくまで第一印象での素直な印象をいってくださいね。嘘や、おせじをいっても意味がありませんよ。さぁ、どうぞ」

ユミって人はどっかいっちゃったし、カナコちゃんの隣ってどんな人なんだろう。

「エンドウ、カナコさん?」
「は、はい……」
「私から、はじめてもいいですか?」
「はい。お願いします……」
「エンドウさんは、暗そう」
「え?」
「ごめんなさい。聞き返したらいけないルールなの。私、ベーシックコースをすでに受けたから知ってるんだけど、エンドウさんははじめてよね? じゃあ説明するけど、こうして一言ずつお互いの印象を思ったままにいうルールなの。反論や、聞き返すのはなし。目をそらしても駄目。目を見たまま、あなたも私の印象を一言だけいえばいいの。そしたら私もまたいう。それの繰り返しなの。さぁ、どうぞ」

「あ、はい。えーと、キミカワさん? は……」
「遠慮しないで、そういうルールだから」
「はい……。洋服がおしゃれ……」
「エンドウさんは、声が小さい」
「キミカワさんの、靴が素敵」
「エンドウさんは、化粧が下手」
「キミカワさんの、スカートが短い」
「あのね、服とかじゃなくて、もっと、こう、私自身を見た印象にしてくれない?」
「キミカワさんは、背が高い」
「エンドウさんは、臆病そう」
「キミカワさんは、気が強そう」
「エンドウさんは、気が弱そう」
「キミカワさんは、鼻が高い」
「エンドウさんは、髪型が似合ってない」
「キミカワさんは、キミカワさんは……」
 
何だよ、このキミカワって女は。カナコちゃんのこと好き勝手いいやがって。自分はどうなんだ。ぼくには見えないけど、きっとブスに決まってる。カナコちゃんは気を使ってるっていうのに、偉そうに。カナコちゃんのことを悪くいうなよ。

「はーい、そこまで。いったんここで止めます。みなさん、どうですか? 特に今日はじめて来た方は驚いたんじゃないですか? 初対面の人から率直な印象をいわれる。そんなことは日常ではないですよね? だけど、それはみんながいわないだけ。実は、あなたはそう思われているんです。初対面の人がいうんですから、間違いありません。ショックでしたか? でも、そんな自分を変えたいとは思いませんか?」
 
それより、さっきのことでカナコちゃんが傷ついちゃたらどうしてくれるんだよ。

「えー、おわかりになりましたか? 世間では誰も本音をいってくれません。だけど、心の中ではそう思っている。あなた自身もそうじゃありませんか? 相手に思っていることをそのままなんていいませんよね? そうです。世間とはそういうものなのです。だからこそ、まずは今の自分に気付かなくてはいけない。気付いたうえで自分から変わらなければならない。人は何もいってくれないからです。さきほどのダイアードであなたがいわれたこと、それが今のあなたなのです。いってくれた方に感謝しなくてはいけませんよ。今の自分の姿や印象をそのまま伝えてくれたんですから」
 
そうかもしれないけど、何か嫌だな。カナコちゃんのことを悪くいわれると、何だか腹が立つんだ。でも、それがカナコちゃんのためになるっていうなら。
どうなの? カナコちゃん。

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