エピソード
登場人物紹介
◆サナディー:
言葉を理解するサナダ虫
◆カナコ:宿主
◆ケイコ:カナコの親友
著者プロフィール
「おまたせ!」
「あ、ユミ」
「どうしたの? その目」
「え? あ、これ? あ、昨日の晩ちょっと泣ける映画みちゃって……」
「何? 映画観て号泣? ちょっと止めてよ、カナコ。暗いって」
「それよりさ、ユミ。今日の集まりってやっぱり行くの止めてもいい?」
「何行ってんのよ、ここまで来ておいて。どうしたっていうの?」
「やっぱりちょっと不安で……。それにそんな気分じゃないし」
「もぉ、カナコは。大丈夫だって。それに行けば気持ちだって変わるから。ぐじぐじいわないの! 往生際が悪いよ」
「でもどうして何の集まりか教えてくれないの?」
「そういう決まりだから。あ、でも私が友達を連れて行くことはもういってあるから。今更行けませんは通用しないよ」
「そうなの?」
「大丈夫だって、すっごくいい経験になるから。私にまかせて、カナコ」
「いい経験って?」
「もう、信用しなさいって。私だっておかげで考え方変わったんだから。今のカナコは昔の私を見てるみたい。もったいないことしてるんだよ? でもまだ遅くない。私だってこうして自信を持てるようになったんだから。カナコもしっかりしないと。もう二十六歳でしょ?」
「うん……」
「それにさ、私。そこで運命の人と出会ったの」
「運命?」
「そう、まさに運命の人。彼、四十歳なんだけど、とっても優しくて素敵な人よ。今度カナコにも紹介するね。ほんっとに素敵なんだから」
「へぇ、そうなんだぁ」
「カナコは今付き合っている人いるの?」
「今、は……」
「じゃあ、出会いのチャンスかもしれないよ。もちろんそれだけじゃないわ。まず、自分を変えないと」
「うん。ほら、私を信用して。さ、行こうよ」
「う、うん」
疑り深いなぁ、カナコちゃんは。
ユミって人のいう通りだよ。まずはその性格をなんとかしないと。いつまでもウジウジしてちゃ駄目だよ。この人みたいにハキハキとモノをいえるようにならないと。
それにしても、ユミって人はカナコちゃんをどこへ連れて行ってくれるんだろう。どうして説明しないのかな。だけど、決まりだからっていってたし。たぶん、後でビックリさせるために秘密にしてるのかな。なんだかワクワクするなぁ。
「ここよ、カナコ」
「ヒューマン……ダイヤモンド……ハローシェアリング……セッション?」
「そう。ヒューマン・ダイヤモンド・インターナショナルって会社が行っている説明会なの。ほら、午後一時半から開始だからもう時間がないわ。急ごう」
「う、うん」
「そこの受付で受講料千円だけ払ってもらえる?」
「うん。ユミは? ユミは中に入らないの?」
「もちろん入るよ。カナコひとり行かせるわけないじゃない」
「良かったぁ」
「じゃ、受け取った名札にカタカナで名前を書いて、それを胸につけて」
「あれ、どうしてユミの名札にはマークがひとつついてるの?」
「あぁ、これはすでにベーシックコースを受講したっていう証なの。ダイヤマークよ」
「へぇ、何だかそっちの名札の方がカッコイイなぁ」
「ほら、急いで。会場の横のロッカーに手荷物は全部入れてしまって」
「うん」
「ほら、行くわよ」
「結構広い会場なのね。それにこんなにたくさんの人がいるなんて」
「そうよ、みんなこの説明会を受けるためにやってきた人たちなの。今日はまだ少ない方よ。いつもは百人ぐらい集まるんだから」
「私、もっと暗い集まりをイメージしてた」
「嫌だ、どんな想像してたの? そんなわけないじゃない。きちんとした会社なんだから」
何だかぼくもちょっと安心したな。聞こえてくる声からすると、結構たくさんの人がいるみたいだし。たくさんの人が集まるってことは、それだけ人気があるってことだしね。どんなことになるんだろう。どきどきするなぁ。
「えー、みなさん。本日はようこそおいでいただきました。お集まりいただき、誠にありがとうございます」
あ、どうやらはじまったみたいだ。
「まず、私どもヒューマン・ダイヤモンド・インターナショナルについての説明からさせていただきます。私どもの本社はアメリカにあり、創立は1980年と比較的新しい会社でございますが、現在は世界に四十の支社を持つまでになりました。また、我が社は経団連にも加盟しております。申し遅れましたが、私は日本支社の取締役をしているマナベと申します。私どもは、人は誰でも幸せな人生を送る権利があると考えております。そこで、本日はニンゲンの持つポテンシャルは無限大であるということについて、少しでも多くのみなさんにご理解いただければと思い、このような説明会を催した次第でございます」
「ねぇ、ユミ。あのマイクでしゃべっている人、なんだか怖そうね」
「そんなことないよ、凄く紳士な方よ」
「えー、すいません。これから説明会をはじめるにあたって、いくつかのルールを発表します。説明会の間はどうか、このルールをお守りいただけるようお願いいたします。
よろしいですか。まずひとつ。これから説明会が終わるまで、なるべく私語は謹んでください。休憩中もです。次に、はじめてのみなさんがここにお越しになったのは、紹介者の方がいるからだと思いますが、紹介者、または知人、友人とはできるだけ離れて着席してください。今、近くに座っている方もいるかと思います。これから合図をしますので、合図があったら一度全員にご起立いただき、なるべく知らない人の隣に移動して着席してください。それでは、どうぞ」
「あ、ユミ……」
「ごめんね、決まりだから。でも帰ったりしないから安心して。じゃあね」
何だろう。何がこれから行われるんだろう?
ユミって人も、どこか遠くへ行っちゃったみたいだし。
何が始まるんだろう。
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