エピソード
登場人物紹介
◆サナディー:
言葉を理解するサナダ虫
◆カナコ:宿主
◆ケイコ:カナコの親友
著者プロフィール
「カナコさぁ、何か嫌なことでもあった?」
「ないよ。ちゃんと聞きたいだけ……」
「だから何を?」
「私のこと、好きなの? 嫌いなの?」
「好きだよ」
「じゃあ、どうして電話に出てくれないの? どうしてたまにしか来ないの?」
「さっきいったじゃん。聞いてなかった?」
「じゃあさ、私のどこか好き?」
「こういうことをいわなかったところ」
「……」
「あとは、大きすぎず、小さすぎず、ちょうどいい胸、かな」
「何、それ」
「じゃあさ、カナコは俺のどこがいいわけ?」
「それはぁ……」
「ほら。な? そんなもんなんだって」
「そうじゃないよ。私だって……」
「別にいいよ。俺は俺のどこが好きだとか別に知りたくないし。そんなもん聞いたって仕方ないじゃん」
「仕方ないって……」
「ようはさ、顔とかさ、性格とかさ、優しいからとかさ、いろいろいうけど結局はフィーリングなんだよ。合うか合わないかだけだって。体の相性がいいとかさ、そういうことなんだよ」
「それだけ?」
「な? 女はすぐそういうだろ? 体っていうとすぐ体だけ、とか。別にエッチに限ったことじゃないよ。ようは総合的にどうかってことだろ、っていってんの。顔だけとか、性格だけとかじゃなくて、それを全部ひっくるめてどうかってことだよ」
「でも、サトル。私以外にも誰か付き合っている人いるんでしょ……」
「いないよ」
「嘘……」
「嘘だと思うならそれでいいよ。だって否定してんのに嘘っていわれたら証明のしようがないじゃん」
「だって……それなら」
「それなら何だよ。疑うなら疑えばいいじゃん。俺はカナコのことを別に疑ったりしてないけどね」
「私は本当に他には誰もいないから」
「何だよ、私はって。俺のときは嘘で自分のときは本当なのかよ」
「そうじゃないけど……」
「もういいよ、面倒だから。で? 何がいいたいの?」
「このままズルズル続くのは嫌なの」
「なんだよ、さっきからズルズルズルズルって。ラーメン食べたかったんならそういえよ。そしたら残してやったのに」
「真面目に答えてよ」
「真面目だよ。ズルズルって何だよ」
「このままの関係が、嫌なの」
「わかった。カナコが嫌っていうんなら、もう来ないよ」
「そんな簡単に……」
「だってそうだろう。嫌だっていわれてるんだから、俺が。なら仕方ないじゃんか」
「サトルのことが嫌だとはいってないよ。このままが嫌だっていってるの」
「俺はこういう人間なんだから仕方ないじゃん。このままだよ」
「どうして、ちょっとぐらい努力しようとしてくれないの?」
「努力って?」
「俺はこうだから変わらないとかそんなことじゃなくて、少しは私のことも……」
「何それ、なんで努力しなきゃならないの? 恋愛なんて努力してするもんじゃないだろう。そんなのいずれ無理が出て結果は同じだよ。人間関係なんて、合うか合わないかだけだっていったじゃん。合わない者同士が一緒にいたってしょうがないだろう」
「どうして? ちょっとぐらい、そういうのがあってもいいじゃない」
「じゃあ、努力してくれる人を探しなよ。カナコのことを考えて、カナコのために尽くしてくれる男がいいんじゃない?」
「どうしてそういうこというの?」
「だってさ、俺だって別にカナコが嫌がることなんかしてないぜ? そりゃ金借りてるのは悪いけど、それ以外はカナコを傷つけるようなことはいってこなかったし、俺は俺なりに考えてんだけどなぁ」
「だったら……」
「面倒臭い」
「え? 何が?」
「今、この状況が」
「でもきちんと聞きたいから……」
「帰るよ、俺」
「え?」
「だって空気悪いじゃん。それにこのままじゃ嫌なんだろ? 俺はこんな人間だから、たぶん変わらないよ。でもそれじゃあカナコは嫌なんだろ? だから帰る」
「そ、そんな簡単にいわないでよ。別にそういう意味でいったんじゃないんだから」
「じゃあどういう意味だよ。ようは不満があるってことだろ。なら帰る」
「本当に、もう帰っちゃうの?」
「うん、帰る。そんでもう来ない。カナコもその方がいいだろ」
「そ、そんな……」
「じゃあね。本当にもう来ないから安心しな」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「鍵も返すよ、ほら」
「ちょっと、サトル……」
「じゃ。あ、あとラーメンありがと。うまかったよ」
「……」
「何だかサッパリしてて悪いけど、別れなんてそんなもんだから。じゃ、元気で」
「サトル!」
「泣くなら、俺が出て行ってからにしてね。ばいばい」
ほんとに帰っちゃった。何だよ、アイツ。
でもちゃんといえたね、カナコちゃん。
だけど、サトルってほんとムカつくよね。俺は俺はって、いったい何様なのさ。ほとんど何も答えてないし、都合が悪くなると一方的に帰るとかいっちゃってさ。
でも良かったね、カナコちゃん。あんな最低男と別れることができて。もう来ないって本人もいってたし。最後まで最低な奴だったね。自分のことばっかりで、カナコちゃんのことなんかまるで考えてないんだよ。本当にもう二度とカナコちゃんに近づかないで欲しいよ。
大丈夫だよ、カナコちゃん。ぼくがついてるさ。
だから……、泣かないでよ、カナコちゃん。
「あ、もしもし? ユミ? うん……、大丈夫。え? 何でもない……。ちょっと、風邪ぎみで。うん。明日? あ、そうだったね? うん。風邪はたいしたことないから大丈夫。午後一時にこの前あったところでね。うん、わかった。じゃ、明日。おやすみ」
そうだった。明日はあのユミという人に誘われた楽しそうな集まりがあるんだった。
カナコちゃん、それで少しは元気になってくれるといいんだけどな。
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