エピソード
登場人物紹介
◆サナディー:
言葉を理解するサナダ虫
◆カナコ:宿主
◆ケイコ:カナコの親友
著者プロフィール
その翌週の火曜日、サトルはいつものようにひょっこりやってきた。
カナコちゃん、ケイコちゃんにいわれた通り、ちゃんといえるかな。
「カナコさぁ、今日はカレーないの?」
「ないよ」
「冷凍もしてないの?」
「うん」
「くそー、いっときゃよかったなぁ。今日カレー食べたかったんだよなぁ」
「サトルって、前からそんなにカレー好きだっけ?」
「いや、普通。だけどこの前作ってくれたじゃん。あれ、おいしかったからさ」
「そうなんだ。いってくれれば良かったのに」
「あぁ、しまったなぁ。他、なんか食べるもんある?」
「ないよ。だって、突然来るんだもん。インスタントラーメンぐらいしかないよ」
「何ラーメン?」
「サッポロ一番塩ラーメン」
「それでいい! それ作って。腹減ってんだよ。あ、ゴマ油たっぷりね。あと、卵も入れて」
「じゃ、ちょっと待って。今作るから」
なんでラーメンなんか作ってやるんだよ、カナコちゃん。
突然やってきて腹減ったとかいってるんじゃないよ、この最低男め。
アルバイト代はどうしたのさ。カナコちゃんは今、無職なんだぞ。これからのことだって、まだ何も決まっていないし。質素につつましく暮らしているっていうのに、好き勝手いいやがって。お前なんかな、お前なんかな……。
「はい。できたよ」
「ありがとー! どれどれ、うまい! やっぱりインスタントはサッポロ一番だな。カナコはサッポロ一番のうまさを最大限に引き出してるよ」
「誰が作ってもあんまり変わんないと思うけど」
「いや、違う。これはプロの域に達してるよ。いやー、うまい」
「あのさ……」
「あ、そういや、仕事どうした?」
「まだ決めてない……」
「ふーん。いいよなぁ、無職でも生きられるって。俺なんて一ヶ月働かないと即餓死するもんなぁ」
「ねぇ、サトル」
「ねぇ、今日ってテレビで何か映画やってないの?」
「今日は何もないよ」
「そっかぁ。俺、テレビでやってる映画って結構好きなんだよね。自分で金出してみたいと思わなくても、やってるとさ、結構見ちゃう。この前なんか『ベイブ』見て泣きそうになったもん」
「サトル、あのね……」
「ん? どうした? 一口食べる?」
「いい。そうじゃなくて、ちょっと聞いて。食べながらでいいから」
「何を?」
「これから私がいうこと。それにちゃんと答えて欲しいの」
「何? 真面目な顔して。どうしたの?」
「いいから聞いて」
「わかったよ。で、何?」
ちゃんというんだよ、カナコちゃん。
最低男はどっかいっちゃえばいいんだ。
「私のこと、どう思ってる?」
「どうって?」
「好きだとか……嫌いだとか」
「突然どうしちゃったの? 顔赤いよ? 酒でも飲んだ?」
「うん、さっきビールをちょっとだけ」
「珍しいね。俺も飲みたい。これ食べたらベッドで一緒に飲もうよ」
「そうじゃなくて……」
「何?」
「私のこと、好きかどうか答えてよ」
「ごちそうさまー。うまかったよ。やっとお腹が落ち着いたよ。もう腹ぺこで死ぬかと思ってたんだよ。いやー、助かった」
「真面目に答えてよ」
「何をだよ」
「私のこと、どう思ってるのかよ」
「どうって、そりゃあ……何? どうしたの?」
「嫌なの、このままズルズル続くのが」
「ズルズルって?」
「だってサトル、私から電話しても出ないし、メールだって私から送らないとくれないし、来る日だって、バラバラでいつも突然だし」
「今日って、都合悪かった?」
「そういうことじゃなくて、これって付き合ってるっていえるの?」
「付き合ってるんじゃない?」
「じゃあどうして電話しても出ないの?」
「夜はバイトだしさ、昼は寝てるから」
「休みの日は?」
「休みかぁ、休みの日はだいたい誰かと飲んでるからなぁ」
「飲んでても電話ぐらい出られるじゃない」
「俺さ、安い居酒屋ばっかりで飲んでるからさ、うるさくて気付かないんだよね。で、寝る前に気付くんだけど、その時はもうベロベロだし」
「おかしいよ、絶対」
「俺、おかしいんだよ。バカだし」
ちゃんとわかってるじゃないか、バカだってこと。カナコちゃんはお前なんかにはもったいないんだ。どっか行っちゃえ、バカ。
カナコちゃん、もうこんな男見切りつけちゃいなよ。
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