ほんつながおくる『WEBでしか読めない小説』をご覧あれ!

ほんつなHOME - サイトマップ - 運営会社

WEB小説

登場人物紹介

  • ◆サナディー:
      言葉を理解するサナダ虫

  • ◆カナコ:宿主

  • ◆ケイコ:カナコの親友

著者プロフィール

  • 穴澤賢(あなざわまさる)
    1971年大阪生まれ。
    ペットブログ「富士丸な日々」の管理人。
    著書に「富士丸な日々」、エッセイ「ひとりと一匹」などがある。

  • 詳しくはこちら
rss
第十回

「カナコ、悪りぃんだけどさ、三万貸してくんない?」
「ごめん、今ちょっと無理なの……」
「なんで? いいじゃん。ちゃんと返すからさ」
「ほんとに無理なのよ」
「なんでだよ。ケチ」
「私、仕事辞めちゃったんだ」
「え? マジ? いつ?」
「先週いっぱいで」
「なんで辞めたの?」
「うーん……」
「次の仕事は決まってんの?」
「まだ……」
「金はどうすんのさ。どうやって暮らしてくんだよ」
「ちょっと今、考えてるところ」
「貯金とか、あんの?」
「多少はあるけど、それでとうぶん暮らせるほどはないよ」
「あるんじゃん。じゃ、三万貸してよ」
「だから、そういう状況だから、今回はごめん」
「なんだよー。頼むよぉ、貸してくれよぉ」
 
貸さなくていいよ。
今まではぼくもだまっていたけど、もう限界だ。
カナコちゃんには男がいるんだ。
サトルっていうんだけど、こうしてたまにカナコちゃんのところへやって来ては、自分勝手なことばっかりいってる。年はカナコちゃんより下で二十四歳らしい。二人がいつからこんな関係なのかは知らない。ぼくがカナコちゃんのお腹に入ったときにはすでに居たから、結構長い付き合いなんじゃないかな。たいてい突然やってくるんだけど、カナコちゃんはいつも部屋に入れてあげるんだ。それに合い鍵も持ってるみたいで、遅い時間に帰ると、勝手に部屋で寝ていたりするんだ。自分勝手で、図々しくて、ぼくはこいつが本当に大嫌いなんだ。
 
でも、なぜかカナコちゃんはサトルのことが嫌いじゃないみたいなんだ。
頼まれれば、だいたいサトルのいうことを聞いてあげたりするし。こんな奴のどこがいいっていうんだろう。
ただ、不思議なことに、そんなに長い付き合いになるのに、なぜかカナコちゃんはサトルのことを誰にも話していないみたいなんだ。お母さんはもちろん、ケイコちゃんにだって話していない。
だいたい、この二人は変な関係なんだ。
 
ぼくはカナコちゃんのお腹の中で一緒にテレビの音だって聞いているから、テレビドラマだってたくさん見てきた。実際に見たわけじゃないけど、聞いているだけでも結構おもしろいんだ。カナコちゃんは恋愛モノとサスペンスが大好きだから、ぼくもずいぶん勉強したよ。特にサスペンスドラマは、途中で誰が犯人かわかっちゃうぐらい。毎回毎回同じようなストーリーなのに、どうしてカナコちゃんはサスペンスがあんなに好きなんだろう。
 
そんなことはどうだっていいんだけど、そんな中でわかったことがあるんだ。
それは、カナコちゃんとサトルが普通の恋人同士ではないということ。
まず、サトルはたまにしか来ない。だいたい月に一回来るか来ないか、多くても二回ぐらい。連絡もサトルから。カナコちゃんから電話をかけてもでない。ふらっと現れては好き勝手いって、ご飯を食べて翌朝帰る。あと、お金をせびる。ドラマで耳にするような「愛してる」だとか「好きだよ」なんて台詞も一切なし。何だか、いいように利用されているだけのような気がするんだ。
 
カナコちゃん、騙されてるんじゃない? 
どうしてそれに気がつかないんだろう。
テレビドラマでだって、よくいってるじゃないか。「他に女がいるのね」とか「騙していたのね」なんて。なぜ、自分のことになると気付かないんだろう。
それとも気がついているのかな。
気がついているけど、それでもサトルのことが好きなのかな。ぼくにはわからないよ。

「頼むよぉ。三万ないと、俺、困るんだよ」
「私だって、困るもん」
「貯金あるんだから、いいだろう。返すからさ」
「この前貸した三万だって、まだ返してくれていないじゃない」
「あれはさ、まだバイトの給料が出てないからさ。出たら返すよ」
「バイトって、今何やってるの?」
「え? SMクラブの受付だよ?」
「まだやってたの?」
「やってるよ。結構面白いんだぜ。顔は直接合わせないんだけど、監視モニターで見てるとさ、たぶんどっかの偉いさんなんだろうなぁみたいな人が、人目を忍んで夜な夜なやってくんの」
「それのどこが面白いの?」
「面白いじゃん。社会の裏側が見られるんだぜ」
「もっとまともな仕事しなよ」
「まともだよ。職業を差別するんじゃないよ。女王様だって、ソープ嬢だって、みんな一生懸命働いてんだよ。もちろん、受付の俺だって。ま、俺はずっと漫画読んでるだけだけど」
「働いてないじゃん」
「バカ。お金もらってんだから、それは労働だよ。漫画を読んで、客が来たらお金を受け取る、立派な職業なんだよ」
「わかったよ。それは別にいいんだけど、ちょっと今回は無理なの。次の仕事が決まるまで、ちょっと待ってくれない?」
「マジかよ。アテにしてたのになぁ」
「お願い」
「わかったよ。まったく、しょうがねーなぁ。あ、何か食べるものある?」
 
最低だ、こいつ。
ほんとにどこがいいんだろう。

WEB小説