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登場人物紹介

  • ◆サナディー:
      言葉を理解するサナダ虫

  • ◆カナコ:宿主

  • ◆ケイコ:カナコの親友

著者プロフィール

  • 穴澤賢(あなざわまさる)
    1971年大阪生まれ。
    ペットブログ「富士丸な日々」の管理人。
    著書に「富士丸な日々」、エッセイ「ひとりと一匹」などがある。

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第九回

ぼくがトイレばっかり行かせたために、カナコちゃんがクビになってしまった。
カナコちゃんは、ぜんぜん悪くないのに。
つまらないこと、するんじゃなかった。
でもぼくは、カナコちゃんにちゃんと嫌なことは嫌っていって欲しかっただけなんだ。それがこんなことになるなんて。
 
だけど、自分勝手なことしたばっかりにカナコちゃんがクビになっちゃった。働かなければ食べていけないのがニンゲンなのに。結局、それはぼくにとっても大問題じゃないか。あぁ、ぼくは馬鹿だ。宿主に迷惑をかけるなんて。これじゃ、ウイルスと一緒じゃないか。カナコちゃん、ごめんなさい。
 
その夜、カナコちゃんは何も食べてくれなかった。ぼくはもう食欲を感じてもらうとか、そういう努力はしなかった。だって、ぼくのせいだから。
ぼくは、カナコちゃんにとんでもないことをしてしまった。
 
それから約一ヶ月、カナコちゃんは淡々と仕事をしていた。
いつも通り、朝きちんと出社して、電話をとって夕方になったら帰るだけ。不思議なことに、ミズノがカナコちゃんに仕事を頼んでくることは一切なくなった。
カナコちゃんも、どことなく元気がないままだった。ぼくもなんだか暗い気持ちが続いた。以前のように、ただひっそりとお腹の中で暮らすだけだった。
 
食生活はまた以前のように戻り、居心地が悪かったけど、元はといえばぼくがまいた種だ。カナコちゃんに迷惑をかけるなんて。居させてもらえるだけでありがたいということに気がついたんだ。
 
カナコちゃんは、契約が終わる頃になっても次の仕事を探しているようすはなかった。クビになったことだって、誰にもいっていない。ケイコちゃんにすらいっていない。
どうするつもりなんだろう、カナコちゃん。
でもいいよ。カナコちゃんが死ぬときは、ぼくも一緒さ。
 
元々あまり話をしなかった職場だったけど、ますます誰とも話さなくなった。また、誰もカナコちゃんに話しかけてこなくなった。黙々と電話をとり、定時にひっそりとタイムカードを押して帰るカナコちゃん。
 
今日で最後、という日にも特に変わったことはなかった。
いつも隣で電話をとっていたハラダさんが、「エンドウさん、今日で最後だったっけ? お疲れ様。次の仕事も頑張ってね」といっただけだった。ミズノは近くにも寄ってこなかった。
 
以前、カナコちゃんの同僚が辞めたときは、送別会というものがあった。
普段飲まないビールが入ってきて慌てたからよく覚えているんだ。
ビールは嫌だけど、カナコちゃんの送別会ならと覚悟していたのに、何もないなんて。
どうしてカナコちゃんには送別会がないんだろう。何か理由があるのかな。どうして送別会がある人とない人がいるんだろう。ぼくにはさっぱりわからない。
ニンゲンって、色々あるんだな。
最後の仕事が終わった日、カナコちゃんはまっすぐ家に帰り、何も食べずに早々と寝てしまった。
 
でも次の日は、朝きちんと起きて、しっかりご飯を食べて、どこかで誰かと会っているようだった。
「エンドウさん、ウイルス・ワンアタックサポートセンターの契約は終了しましたけど、次はどうされますか?」
「次、ですか。特に今は考えていないんですが」
「では引き続き、うちの方でお仕事を紹介させていただく形でかまわないですか?」
「はぁ……」
「大丈夫ですよ。エンドウさんぐらいスキルがあれば、またすぐに次の職場は見つかると思いますよ」
「あ、でももうサポートセンター系は……」
「サポートセンター以外ですか……。難しいかもしれませんよ。今うちにくる求人もほとんどはサポートセンターのお仕事ですからねぇ」
「そうなんですか……」
「ええ、それに時給だって、高い方がいいでしょう?」
「それは、まぁ」

「エンドウさんはテクニカルサポートができるから、その点は大丈夫ですよ。たぶん千六百円以上の時給のところが見つかると思いますよ。これがカスタマー系だと千二百円止まりだから、そう考えるとずいぶん違うでしょう?」
「はぁ、でも、あの、本当にもうサポートセンターは、もう」
「じゃあ、どうしますか? ちょっと他の職種も探してみましょうか?」
「あの、ちょっといいにくいんですが、派遣自体を辞めようかと思ってまして」
「派遣を辞めるって、うちの登録を取り消すってことですか?」
「は、はい」
「どうしてまた? 前の職場で余程嫌なことでもあったんですか? 先方からは特に何も聞いてないけど、気にしなくていいですよ。クライアントはわがままばっかりいいますからね。それに人には向き不向きがありますから。エンドウさんに合った職場を探しましょうよ」

「そういうことじゃなくて、派遣だと、なんか、こう、いいように使われているような」
「そんなことはないですよ。社会保険だって、雇用保険だって、派遣先では入ってないけど、うちでしっかり入っているでしょう? そりゃたしかに、クライアントからみれば三ヶ月契約で使える人材というのは便利かもしれないけど、正社員を募集しているところって今は少ないんですよ。うちに登録さえしておけば、自分で職探ししなくていいし、エンドウさんもその方が楽でしょう?」
「そうかもしれないんですけど。なんだか、こう」
「大丈夫ですよ。うちには、たくさん求人が来ますから。きっと、すぐに見つかりますよ」
「いえ、やっぱりいいです。私、派遣辞めます」
「ほんとに? 仕事なんてそう簡単に見つかりませんよ? 本当にいいんですか?」
「いいんです。雇用保険の手続きをしたいので、よろしくお願いします」
「それは残念ですね。でも、そういうことなら仕方ないですね。ただ、失業保険っていっても、解雇扱いじゃないから支給されるのは三ヶ月先からですよ?」
「それでいいです。お願いします」
「じゃあ、自宅に書類を発送するようにします。次、見つかるといいですね」
 
はじめてはっきり自分の意見がいえたね、カナコちゃん。
だけど、本当にこれからどうするの?

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