エピソード
登場人物紹介
◆サナディー:
言葉を理解するサナダ虫
◆カナコ:宿主
◆ケイコ:カナコの親友
著者プロフィール
「あの、話って……」
「うん。それがね、エンドウさんの勤務態度についてなんだけどね」
「勤務態度、ですか?」
「うん。ちょっとそれが上で問題になってて」
「あ、でも私、遅刻はしてませんし、早退だって」
「そういうことじゃないんだよね」
「じゃあ……」
「エンドウさん、このところずっと早く帰ってるよね」
「あ、すいません。あれは……」
「お腹が痛いから?」
「は、はい。あ、でもほんとに」
「でも、おかしいよね。コールセンターがオープンしているときは何ともないなんて」
「いえ、それが、自分でも」
「ぼくが仕事を振ろうとすると、お腹が痛くなる」
「いえ、決してそういうわけじゃ……」
「じゃあ、どういうわけ?」
「…………」
「子どもじゃないんだからさ、いつもお腹痛い痛いっていわれても、ねぇ」
「いえ、ほんとに違うんです。どうしてかわからないんですけど、夕方コールセンターがクローズした後に、決まって急にお腹が痛くなって……」
「君、やる気、ある?」
「あります」
「周りにはないと映ってるよ。特にぼくの上には」
「そ、そうなんですか?」
「だってさ、君の隣のハラダさんだって、他の人たちだって、みんな遅ーくまで働いてるよ?」
「はい、それは知っています」
「うちはさ、コールセンターだけど、電話だけとってりゃいいってもんでもないんだよね」
「は、はい……」
「お客の意見をメーカーにフィードバックしなくちゃならないし、クライアントを満足させるだけの成果も必要。みな顧客満足度を少しでも向上させようと必死なわけですよ。そのためにぼくなんかは夜遅くまで働いてね。わかるよね?」
「は、はい」
「それに、君たち派遣社員にはしっかり残業代も払ってるでしょ? ぼくら、残業代なんてないんだよ?」
「はい……」
「そのぼくらの仕事をちょっとでも助けてもらわないとさ。電話だけ取って、はいさよならじゃ、こっちとしても、ねぇ」
「はい……。以後気をつけます」
「以後、ってことは、やっぱりお腹痛いのは仮病だったわけ?」
「いえ、それは違います。ほんとに違うんです」
「なら、おかしいじゃない。以後どうやって気をつけるっていうの?」
「それは……」
「君の契約更新って、次は来月末だったよね」
「はい。三ヶ月更新なので」
「次の更新、ないから」
「え? でも、そんなに突然」
「突然っていっても、うちと君の派遣会社の契約じゃあ、それでいいことになってるからさ」
「あの、これからはできるだけ残業もしますから」
「悪いけど、遅いんだ。もう上で決定しちゃったんだ」
「でも、私、定時で帰っていたのはたしかに申し訳ないと思っていたんですが……」
「ぼくもかばったんだよ、実は。エンドウさんはよくやってくれているってね。でもさ、タイムカードに出ちゃうからさ、数字が。こう、ダーっとね。また上でそれをチェックしてる人がいるんだよ。細かくね。だからかばいきれないんだよ。ぼくだって本当は嫌なんだよ、こんなこというのは。エンドウさん、よくやってくれてたしね」
「………」
「もう君の派遣会社にも話が通っていることだし、もうすぐ担当者から連絡あるんじゃないかな」
「あの、それって、もう決定なんですか……」
「ごめんね。じゃあ来月いっぱい、ということで」
「はい……。わかりました」
「気を悪くしないでね。ぼくが決めたことじゃないから。上が、ね」
「はい」
「じゃあ、話はこれで終わりだから。今日はもう帰っていいよ。お疲れさま」
「あ、はい。お、お疲れさまでした……」
どうしよう。カナコちゃん、クビになっちゃった。
ほんとにどうしよう。
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