エピソード
登場人物紹介
◆サナディー:
言葉を理解するサナダ虫
◆カナコ:宿主
◆ケイコ:カナコの親友
著者プロフィール
「あ、もしもし? お母さん、私、カナコ」
「えらい…さしぶり……ど…たん?」
「どうもしてないよ。元気かなと思って」
「そらまた……お父さん……してるで」
普通の電話だと、ぼくには相手の声があまりよく聞こえないんだ。だけど、どうやらカナコちゃんはお母さんと話しているみたい。こうして、たまにだけどカナコちゃんはお母さんに電話する。そのとき、カナコちゃんは普段の話し方とは少し違うしゃべり方をするんだ。なんだろう、イントネーションが違うというか。だけど、ぼくはお母さんと話すときのカナコちゃんの話し方が結構好きなんだ。
お母さんってどうやら自分を生んでくれた人みたい。お母さんと話すって、どんな感じなんだろう。ぼくを生んでくれたお母さんだっていたはずだけど、ぼくらは卵から生まれるし、その卵だって大量に生むから、お母さんに再会することなんて絶対にないんだ。生きていく場所だってニンゲンのお腹の中だし、会えるわけがないのさ。でもきっと、いや、絶対に生んでくれたお母さんがいるからぼくがいるんだろうな。会ってみたかったな。
カナコちゃんはお母さんと話すことができて、いいなぁ。なのに、カナコちゃんはお母さんと電話をすると、きまっていつも喧嘩して終わるんだ。なんでだろうね。
「私さぁ、最近よくお腹が痛くなんの。たまにやけど」
「それやったら…病院…方がええ……の」
「病院は行きたないんやもん」
「それより……ええ人……のか……いつまでも……うで」
「ほっといてよ。そんなん私の自由やんか」
「サエ……は…子ども…旦那さん……ってやってる…いうのに」
「ほっといて。お姉ちゃんは関係ないでしょ。なんでいつも結婚結婚いうんよ」
「わたしか……たないよ…でもお父さん……やから」
「何よ、すぐにお父さんがお父さんがって。何で何でもお父さんのいう通りなんよ。それに私がどうしようと私の自由でしょ。もうほっといて」
「あんたの……思って…やないの」
「もういいって。いっつもいっつも同じことばっかり。もう切るから」
「ちょっと……なさい」
いつもカナコちゃんこうやって電話を切るんだ。何を話しているのか、なんでカナコちゃんがお母さんと話すと機嫌が悪くなるのか知らないけど、困ったもんだよね。
ぼくにはそんなことどうだっていいんだけど、病院か。
まずいなぁ。病院には行って欲しくないなぁ。
だって、詳しく検査されたら、ぼくがいるのがバレちゃうじゃないか。困ったな。
だけど、例の便意作戦は今のところ結構うまくいってるしなぁ。
あれから、ぼくはカナコちゃんが嫌な仕事を振られそうになると、トイレへ駆け込ませてきたんだ。カナコちゃんもトイレには行くものの、下痢でもないし、それほど出るわけでもないし、不思議がっているみたいだ。でも結果的に振られる仕事は減ったし、ここんところ、早く帰ってゆっくりしてくれる日が増えたから、ぼくはとても嬉しいんだ。
昨日はまたカレーだった。カレーはすごくいいんだよ。野菜もお肉もたくさん入っているカナコちゃんカレー。カナコちゃんがそれを食べてくれると、ぼくもたくさん栄養がもらえるんだ。だから、ぼくもカレーが好きなのさ。
問題は、まだカナコちゃんが便意にだけ左右されているということかな。
いい加減、自分が嫌な気持ちを押し殺したときに腹痛が起こると気付いてくれないかな。
鈍いよなぁ。でも、あとちょっとだと思うんだけどね。
だけど、病院に行かれたら最後だし。どうしよう。
ひとまず、もうちょっとだけつづけてみることにしたんだ。
次の日も、またミズノはやってきた。
「エンドウさん、ちょっといいかな」
なんでこの人は後ろからそうっと近づいてくるんだろう。でもいいさ、カナコちゃんに仕事をおしつけるつもりなら、また妨害してやるんだ。
「あ、はい」
「後でちょっと会議室まで来てくれないかな。ちょっと、話があるからさ」
「え? どういった話でしょうか」
「いや、たいしたことじゃないんだけど、ここじゃなんだからさ。十五分後ぐらいに第二会議室まで来てもらえるかな」
「はい。わかりました」
なんだろう。今日は仕事を押しつけてこなかったな、ミズノ。それに別の部屋に来いって、なんだろう。もっと大きな仕事を押しつけようとしてるのかな。でもへっちゃらさ。カナコちゃんにはぼくがついてる。どんなに大きな仕事を押しつけようとしてきたって、トイレ作戦でまた断ってやるんだ。
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第六回
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