エピソード
登場人物紹介
◆サナディー:
言葉を理解するサナダ虫
◆カナコ:宿主
◆ケイコ:カナコの親友
著者プロフィール
内面では嫌だと思っていることを、はっきり断らせる方法。それを考えてみた。
ぼくにできることは限られているし、できるとしてもせいぜい便意をコントロールするぐらい。
でもそんなことでカナコちゃんの性格を直せるのかな。
だけど自分のメリットのためだから、やってみるだけやってみることにしたんだ。
カナコちゃんが内面では嫌だと思っているのに、それがはっきりいえない場合、トイレに行きたくなるようにしむける。
それは意外に簡単だと思う。肛門筋付近にいる神経細胞にウンチが押し寄せて来たと嘘をいえばいいんだから。それに彼らはいつだって力を入れていて、きっと休みたいはずだから騙しやすいはずだしね。
ちょっと差し込む感じも付け加えないと。こう、一刻を争うような。
だけど、カナコちゃんに恥をかかすわけにはいかないから、本当にお漏らしはさせられないしね。あくまで便意だけを強烈に感じてもらうようにしないと。
カナコちゃんの性格はもうだいたいわかっているから、あとは嫌だと思っているのにそれがいえないときに、いかにすばやく便意を感じてもらえるかを練習するだけ。
こんな方法でカナコちゃんを変えられるのかはわからない。
けど、何もしないよりはやってみた方がいいからね。
そう決意してから、ぼくはがんばった。がんばってトイレへ駆け込ませる練習をしたんだ。それも、慎重に、少しずつ。
何でもないときに下手にトイレへ駆け込む回数が増えたら、後々の効果が薄れるからね。だから、あくまでカナコちゃんのペースで、本来そろそろトイレへ行く頃だろうなというときを見計らって、ちょっと早めにぼくが便意を感じさせるという方法で練習したんだ。
食生活がよくなったおかげで、以前便秘ぎみだったカナコちゃんも最近は普通にウンチをしてくれるようになっていたから、練習の回数的にはずいぶん楽だった。
練習してみてわかったんだけど、予想通り肛門筋付近の神経細胞は騙されやすかった。それに便意というのは、比較的脳のチェックが緩いこともわかった。出したい、というサインにはすぐにオッケーをくれるみたいなんだ。だから食欲とは違って、何度でも同じ手が使えるみたいだった。
ひょっとして、この方法はうまくいくかも。
ぼくはそんな希望さえもつようになっていたんだ。
あとは実戦で通用するかどうかだね。
具体的にカナコちゃんが嫌だといえない場面。
それはどうやら職場の上司から、何かをお願いされるときが多い。昼間に電話に出て、文句をいわれているときも嫌なんだろうけど、夕方電話をとらなくなってからの方が体の中がおかしくなるから、たぶんそうだと思う。上司に頼まれて断れなかった仕事を夜遅くまでしているとき、ふいにグーンと体温が上がるときがあるんだ。で、その後さーっと冷える。お腹の中にいるぼくにはたまらないよ。
だから、まずはその夕方以降の仕事をカナコちゃんにさせなければいいんだ。
そこでぼくは、いよいよ行動を起こすことにした。
カナコちゃんの職場には「ミズノ」という男の人がいる。どうやら、その人が直属の上司で、いつもカナコちゃんに仕事を頼んでくる張本人だ。
またこいつがねちねちした話し方で、お腹の中で聞いているぼくまで気分が悪くなるぐらい。また、自分で指示をして作らせた書類なのに、自分の上司に駄目だしをくらっては、またやり直しをしてくれとお願いしてきたりする。何だか知らないけど、ミズノって人の上にも人がいて、またその上にも人がいるらしいんだ。どこまでそれが続いているのかは知らない。でも、カナコちゃんが誰かに何かを頼むことはないから、きっと一番下なんだと思う。頼まれたことをやったのに、後でそれが全部やり直しになるんじゃ、夜遅くまでかかってやった意味ないよね。大変だよ、カナコちゃんも。お腹にいるぼくはもっと大変さ。
「エンドウさん、ちょっといい?」
「あ、はい」
来た。ミズノだ。いつも決まって夕方電話をとらなくなった後、カナコちゃんの後ろからこう声をかけてくるんだ。ちなみにカナコちゃんは昼間、エンドウさんと呼ばれている。でも、ぼくはケイコちゃんがいう「カナコ」という名前の方が好きだし、そっちを先に覚えちゃったから、ぼくの中では昼も夜もずっとカナコちゃんなんだ。
「あのさ、この前パワーポイントで作ってもらった業務フローあったじゃない」
「あ、はい」
「あの中でさ、海外でウイルスのアラートが出た場合、うちの担当者からメーカーサイドへ知らせる連絡順ってあったでしょう?」
「はい。ありました」
「あれね、会議でクライアントから文句いわれちゃってさ」
「クライアントからですか」
「そう、メーカーの偉い人からね。もしあの通りに夜中に電話がかかって来たら家族が起きるだろ、とかいって怒っちゃってさ」
「あ、でも、それはいただいた指示通りに……」
「そうなんだけどね。ほら、うちはサポート部門を請け負っている会社じゃない。だからうちからすると、メーカーもクライアント、その製品を使ってくれるお客さんもクライアント、さらにサービスを提供している企業もクライアントなわけですよ。もう、板挟みなわけですよ」
「はぁ……」
「だからね、どこかのクライアントだけの要求を通そうとするとさ、どこかにしわ寄せがくるわけですよ」
「はぁ、はい」
「でさ、あの業務フローをちょっと作りなおしてくれないかな。今日って、何か予定ある?」
しっかりいわないと駄目だよ、カナコちゃん。クライアントだか何だか知らないけど、ようはミズノの指示が間違ってたんだから。自分の失敗を人になすりつけるんじゃないよ。用事があるとかないとか関係ないよ。早く帰って栄養のあるご飯をいっぱい食べようよ。
きちんと断れるかな、カナコちゃん。
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第四回
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