エピソード
登場人物紹介
◆サナディー:
言葉を理解するサナダ虫
◆カナコ:宿主
◆ケイコ:カナコの親友
著者プロフィール
カナコちゃんは今日、ケイコちゃんと会っているみたい。
「そういえばカナコ、あんたこの前、近ごろ妙に食欲があるとかいってなかった?」
「うん。何だか前に比べたら異常なほど食欲があるのよね」
「どれぐらい前から?」
「ここ二、三ヶ月かなぁ。あ、そうそう、最近自炊とかするのよ、私」
「カナコが? またどうしちゃったの?」
「何だか知らないけどね、食べたくなるのよ。家庭のカレーとか」
「あんた、カレーなんか作れたっけ?」
「ぜんぜん。でもやってみたら結構できたよ。箱の裏とか見ながらね。結構おいしいんだから」
「ほんとかなぁ」
「ほんとだって。あと、シチューなんかも作れるし」
「作り方、同じじゃない」
「違うよ。でもね、そういう野菜がたくさん入ったものとかすごく食べたくなるんだよね」
「どうしちゃったんだろうね、カナコ。彼氏でも出来た?」
「違うって」
「食欲があるのだってさ、本当は妊娠でもしてるんじゃない?」
「そんなわけないじゃない、ほんとに相手だっていないんだから。いたらケイコにいうって」
「だよねぇ」
カナコちゃんて、ほんとにケイコちゃんといる時は楽しそうに話すよね。体の中も異常ないよ。今、ちょっとだけ動揺したみたいだけどね。それはともかく、仕事のときもこれぐらい明るく話せばいいのに。
「で、どうなの? 最近仕事の方は。やっぱり嫌なの?」
「もう、最悪。毎日毎日電話で文句ばっかりいわれて。それに夕方サポートセンターがクローズした後は、そのログをまとめろだとか、エクセルでグラフを作れとか、あげくのはてには会議用の書類まで作れとかさ」
「毎日遅いの?」
「うん。早くても九時ぐらい。遅いとほんとに終電とかだし」
「大変ねぇ。私も似たようなもんだけど」
「ケイコのところはいいじゃない。まかされている仕事だってぜんぜん私とは違うし」
「たしかにそれはそうかもしれないけど、男連中と同じ扱いされるのも結構辛いのよ。プレゼンやら企画会議やら、それに出張だって。仕事で地方なんか行ったって、ちっとも楽しくないからね」
「そうなの? なんか色んなところ行けていいなぁとか思ってたんだけど」
「幻想よ、そんなの。地方に行くと夜はだいたい取引先の接待だし、そういうときだけ部長も私を女扱いして、やれお酌しなさいだとか、ハゲ親父とデュエットしなさいとか。ホステスじゃないんだから。もう本当に疲れるよ」
「そうなんだぁ。でもケイコは社員だからいいよねぇ」
「何がいいのよ」
「だって、保証があるじゃない。ボーナスだってあるでしょう。私なんて、派遣だからボーナスなんてないしさ」
「ボーナスはたしかにあるけどそんなにたくさん貰えないよ。景気悪いし。それにいくら社員だからって、明日クビ切られるかわかんないよ。実際に先月、違う部署の課長はリストラされてたし」
「その人っていくつぐらい?」
「よく知らないけど、たぶん四十後半じゃないかな」
「奥さん、たまらないよねぇ」
「たしかに。突然旦那がクビになって帰ってきたら、やってらんないよね」
「そう考えると、結婚も考えものだよね」
「うん。私は結婚なんて、まったくしたくないもの」
「そうなんだ。ケイコってやっぱり自立してるよね」
「自立っていうか、自分の身は自分で守らないと。男に頼ったって仕方ないじゃない」
「それでも一度はしてみたいなぁ、結婚」
ケイコちゃんは立派だなぁ。きちんと仕事して、自分の考えをしっかり持って、それがきちんといえて。それに比べて、カナコちゃんときたら。
駄目だなぁ。まぁ、そのお腹の中にいるぼくがいうことじゃないんだけど。
とにかくカナコちゃんには、普段の生活でももっと自分をしっかり持ってもらわないと。せめてケイコちゃんといるときぐらいの素直さを出してもらわないと。いつまでも外側と内側がズレているままじゃ、ホルモンバランスが崩れて居心地が悪くて仕方ないよ。病気にでもなられたら目もあてられない。
だけど、ぼくにはカナコちゃんに自分の考えをはっきりいわせる力なんてないし。
んー、どうしようかなぁ。
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