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登場人物紹介

  • ◆サナディー:
      言葉を理解するサナダ虫

  • ◆カナコ:宿主

  • ◆ケイコ:カナコの親友

著者プロフィール

  • 穴澤賢(あなざわまさる)
    1971年大阪生まれ。
    ペットブログ「富士丸な日々」の管理人。
    著書に「富士丸な日々」、エッセイ「ひとりと一匹」などがある。

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第三回

カナコちゃんにもっとたくさん食べてもらう方法。
それは意外に簡単なんだ。
腸内にある神経細胞たちに向かって「大変だー! 栄養がぜんぜん足りていないぞー! このままだと死んじゃうかもしれないぞー!」とちょっと大げさな危険信号を出すのさ。
 
ぼくがカナコちゃんのお腹の中で、大げさな危険信号を出すとどうなるか。
普段、腸内に栄養が多少足りていなくたって、生きていくに困るわけじゃないから、比較的みんなのんびりしている。それにそんな状態が長く続いているもんだから、「ま、こんなもんじゃない?」と悠長にかまえていたりするんだ。
そこへどこかから大声で脅かされたら慌てるわけさ。
 
慌てた神経細胞は、ことの真相をつきとめる前に一直線に脳まで危険信号を伝えてしまう。すると脳細胞もそりゃ大変だとばかりに「何か食べろ」と命令を出してくれる。そこではじめてカナコちゃんは食欲を感じてくれるというわけ。
 
実は、そんなふうに体のあちこちの神経細胞は脳と繋がっているんだよ。指先に感じた痛みがすぐわかるのも、指先の神経細胞が脳に情報を伝えているから。そういう神経細胞が腸内には特に多いから、ぼくにもそんなことができるってわけさ。
 
ただ、この方法はあまり何度も使えないんだ。
腸内の神経細胞もバカじゃないから、そのうち嘘だとバレちゃうんだ。だけど、一度たくさん食べ物が入ってくると、今までの状況がいかに良くなかったかということは学んでくれるらしく、以前のような状態になる前に自発的に脳に食欲をうながしにいってくれるようになるんだ。本当は胃の役目なんだけど、腸内からもある程度は操作できるということなのさ。
 
ちなみに免疫細胞や神経細胞なんかのちょっとやかましい奴らがいる腸内だけど、ぼくは見つからない。というか、見つけられないんだ。彼らに見つからない特殊な物質を出しているからね。さしずめぼくは、腸の忍者っていうところかな。誰に気付かれることなく、陰に隠れて暮しているんだ。
 
そうしたぼくの努力があって、以前に比べたら多少は食べてくれるようになったカナコちゃんだけど、食べる物は相変わらず栄養のないものばかり。
ケーキやチョコレートをたくさん食べてもらっても、ぼくはそれほど嬉しくないんだけどなぁ。
 
ニンゲンというのは、どうやら自分にどんな栄養が足りていないのか、わからない生き物みたいだ。そんなの、自然界の動物たちはみんなわかっているというのに。ミネラルが足りない地域では岩をかじってミネラルを補給したり。ニンゲンぐらいだよ、自分でわかっていないのは。
だけど、そんなニンゲンの中を好んで暮らしているんだから、文句はいえないか。
 
そこで、ぼくはまた考えた。
足りていない栄養素を特定して補給してもらうのは、そんなに簡単じゃない。
その願いを叶えてもらうためには、どんな食べ物にどんな栄養素が含まれているのかしっかり把握しなくちゃいけないし、わかったところで、それを神経細胞にうまく伝えないといけない。
それはすごく難しくて、大変なことなんだ。
 
だけど、自分のメリットになるのなら話は別さ。
 
せっかくたどり着けたニンゲンの体だもの。文句ばっかりいってたって仕方がない。自分でちょっとでもより良い環境に変えていかないとね。
 
だからぼくはずいぶん勉強したんだ。カナコちゃんが注文するときのメニューを必死で聞き取り、それが胃で消化されて腸にやってきた時に分析し、神経細胞にどうやって伝えればいいのか試行錯誤を繰り返したんだ。
 
そもそもカナコちゃんは、お昼だってコンビニのおむすびとはるさめスープだったり、夜は夜でスーパーのお弁当だったりしたから、それを理解するのにとても時間がかかったよ。たまにケイコちゃんといく食事の席などは、これから食べるものを言葉にする少ないチャンスだから、それを聞き逃すまいと細心の注意を払ったよ。
 
その結果、どんなふうに栄養がかたよっているのか、どのビタミンが不足しているのか、またそれを補ってもらうにはどんな食事をしてもらったらいいのか、ずいぶんわかるようになった。また、カナコちゃんにぼくの希望通りの食事をしてもらうことだって、かなりの確率で成功するようなったんだ。
 
だから、カナコちゃんは今では比較的バランスよく食事をしてくれるようになった。以前のカナコちゃんからは考えられなかった自炊なんかもちょっとずつ増えてきてくれた。ぼくにとって、こんなに嬉しいことはない。がんばって勉強した甲斐があったよ。
それに、どんなに嫌なことがあってもしっかり食べてもらうように、ぼくが働いているから、カナコちゃんも以前に比べたら少しは元気になったみたいだ。
食べたら元気になる、なんて当たり前のことなのにね。

「ケイコ、何だか知らないけど、最近やたらに食欲あるんだよねぇ」
この間、カナコちゃんは電話でこういって笑っていたんだ。
少しはぼくにも感謝してもらいたいぐらいだよ。きっとぼくみたいのがお腹にいるとわかったら気持ち悪がられてすぐに追い出されちゃうだろうけどね。

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