エピソード
登場人物紹介
◆サナディー:
言葉を理解するサナダ虫
◆カナコ:宿主
◆ケイコ:カナコの親友
著者プロフィール
「お待たせしました。ウイルス・ワンアタックサポートセンターでございます」
「あ、やっと繋がったよ」
「お待たせして大変申し訳ございません。恐れ入りますが、まず製品のシリアルナンバーからお聞かせ願えますでしょうか」
「シリアルナンバー? それってどこに書いてあるの?」
「製品パッケージの裏のバーコードのところにシールはございませんか?」
「箱? ちょっと待って。あぁ、あったあった。これのどこって?」
「箱の裏側でございます。SNからはじまる十一桁の番号はございませんか?」
「はいはい、これね。えーと、SN93P……268Q784J、これでいい?」
「ありがとうございます。それではご用件をお願いいたします」
「なんかさ、ウイルスが発見されたとかいう窓が画面に出るんだけど、これってどうしたらいいの?」
「どのような画面がモニターに表示されていますか?」
「TROJ……何とかが発見されましたが、駆除できませんとかって出てるよ」
「かしこまりました。では、お客様の製品バージョンはいくつになっておりますでしょうか?」
「バージョン? それってどこ見ればいいの?」
「ポップアップウインドウから、情報というタブをクリックしていただいて、その中の詳細という部分で製品バージョンがご確認いただけます」
「どこ? ポップアップウインド? タブって?」
「現在表示されている小さな画面の上部に、情報という文字はございませんか?」
「ちょっと待ってよ。製品バージョンなんかいいから、ウイルスをどうしたらいいのか教えて欲しいんだけど」
「大変恐縮なのですが、製品バージョンによってはウイルスに対応していない場合がございますので、そうした場合は、まずアップデートをお客様に行っていただく必要がございまして」
「そんなことしなくちゃならないのかよ。一発でやっつけてくれるんじゃないの?」
「申し訳ございません。ひとくちにウイルスと申しましても、日々新しい新種が出現しておりますので、すべてに対応することがなかなか難しく、新たなウイルスに対応するためにはアップデートと必要に応じて専用のツールをですね……」
「高い金とっておいて、対応してないって何だよ。いちいち客に手間とらせんなよ」
「大変申し訳ありません。当社といたしましても、迅速に対応すべくアップデートを日々行っておりますが……」
「さっきから、ポップアップとかツールとか専門用語ばっかり使いやがって。わかんねーんだよ!」
「大変申し訳ございません。ツールというのはですね……」
「もういいよ! 長い間待たせたあげくに、わけのわかんねー言葉ばっかり使いやがって。もうお前んとこの製品なんて使わねーよ!」
「あの、お客様……? お……」
謝ってるね、カナコちゃん。体温が少し上がってるよ。
ぼくは、基本的にカナコちゃんのそばで話している人の声しか聞こえない。だけど、昼間仕事をしている間だけは、何か特殊な器具をつけているみたいで、電話の相手が何をいっているかわかるんだ。
だいたい朝から夕方まで、カナコちゃんはこんな調子で電話に出ている。いきなり怒り出す人はあんまりいないんだけど、たまにこういう人がいるんだ。何で相手があんなに怒るのかぼくにはさっぱりだけど、結構よく怒鳴られている。それ以外でも毎日色々な文句をいわれてるんだ。大変だね、カナコちゃんも。
それにたくさん文句をいわれた日は、体温が上がったり下がったりで体の調子も悪くなる。食欲もなくなるし。ずっとお腹の中から見てきたけど、その繰り返しさ。
大変だか何だか知らないけど、もっと食べてくれないとぼくが困るんだよ。
どうにかもっと食べてくれるように、ぼくが頑張らないとね。
具体的に動いてもらうのは、もちろんカナコちゃんだけど、ちょっとお腹の中から操作してみることにしたのさ。
ひょっとしたら、ニンゲンは自分の行動は全部自分で考えてやっていると思っているかもしれないけれど、実はそうでもないんだよ。
たとえば風邪をひいたとき。体温はあがり何もやる気がしなくなったりするけれど、あれはウイルスをやっつけるために体温を上げているのであって、やる気がなくなるのも「今はこれ以上体力を使うな」というカラダからの命令なんだ。
ぼくは腸内でそのようすをずっと見てきたからよくわかるんだ。
もしかしたら、ニンゲンの行動なんて実はそうした細胞たちからの命令で無意識にやっていることがほとんどで、後から必死に理由をつけているんじゃないのかな。
ぼくら寄生虫は、その無意識をコントロールするのが比較的得意なんだ。ウイルスみたいにバカじゃないから、宿主を痛めつければ最終的に自分が損をすることも知っているしね。だから普段はわりとじっとしてるんだ。
だけど、自分のメリットになるなら話は別さ。
ぼくらの仲間には宿主の動きを自由に操れる種類だっているんだよ。アリから羊に移動したい奴らは、宿主のアリを群れから引き離し、羊が食べそうな草の上でひがな一日ぼーっとさせたり、カタツムリから鳥に移動したい奴らは、わざわざ目立つ枝まで宿主を連れて行き、さらには目に移動して黄色や青の縞模様をうねらせて鳥にアピールしたり。ぼくらは自分で動けないから、宿主をコントロールすることで目的を果たすしかないんだ。
ぼくにはそこまでの力はないけれど、ちょっと多く食べてもらうことはできるのさ。
さて、いっちょやってみようかな。
- 寄生虫サナディー
第一回
- 寄生虫サナディー
第三回